のりものさがしは命懸け(おれだけ)
「へぇーディアナさんは蹴撃の使い手なんですかー」
だから上半身は薄着でよかったんですね、ありがとうございます。
「ええ、いろんな武器を使ってみたけどピンとこなくて。肉弾戦が好きみたい」
に、肉弾戦がスキ……。
ごくりと喉を鳴らしてしまったって仕方ないじゃないか。
「破っ。しかし、乗れそうなモンスターは現れませんね」
だいぶデカめのリスモンスターをかるく沈めたフレトラーさんが困り顔で言う。
あれから小一時間経ってる。
何度か小型モンスターの襲撃にあうも、すべてふたりが倒してくれてた。
はじめに教えられた通り、森で見つけるのはすべて小型。
そうなんだ、サイズがすべて小型なんだよ。
ウサギとかリスとかむりじゃん。人の顔面くらいの大きさがある虫もみたけど、乗れるわけなかったよ。
「もういっそ歩くのはダメなのかしら?」
「んーどうかなぁ。フレトラーさん、そこら辺どうなんでしょうか」
「む、うむ……申し訳ありません、どのような弊害があるのか私にはわかりかねます」
「あっ謝らないでください」
フレトラーさん、真面目だ。
“えき”を村や街とするなら、次の村まで歩いてもいい気がするんだけど、弊害かぁ。あるのかな?
「とりあえずあと半刻(一時間)くらい見回って駄目なら歩きで出発しましょうか」
あいつらと会えなかったのは残念だけど、ふたりは云わばおれに付き合ってくれてるわけだし、長々探すのは申し訳ない。
「わかりました」
「いいの? あんなにワイルドウルフを」
「い、いいんです、いつまでもここに居るわけにもいかないし! さ、もう少しだけみるぞー!!」
「っセンジくん!」
颯爽と足早に歩きだすおれ。
モフリと鼻先に柔らかな感触。
目の前は真っ黒なモヤ。
ゾワゾワと背中を駆け上がる寒気。
「へ、あ、おまえ……」
「使徒様お逃げください!!」
目の前にはモヤモヤに包まれたワイルドウルフがいた。
「ガアアアアアアア!!!」
認識する間もなく攻撃体勢に入ったのかワイルドウルフが後ろ足で立ち上がる。
「うわわわわわっ!?」
必死に後退りなりふり構わず地面をゴロゴロ転がって距離をとれたと同時にワイルドウルフの両前足がドスン!と地面に叩きつけられた。
ヒエっ おれがいたとこじゃん!
「センジくん怪我ない!?」
「使徒様には手を出させん。我らを守れ堅牢なる加護!」
ザッとおれを守るように立ちふさがるふたり。
フレトラーさんのまえにはオーロラみたいな色のでかいオーラが出現した。おそらく魔法のシールドだな!
これで安心かと思いきや、ワイルドウルフの背後からはさらに二頭のワイルドウルフがあらわれた。
ぜったい昨日の三頭だよな!? ぜんぜん雰囲気ちがうけど。すごく怖くなってるけど!
「怪我ないですっ! そ、そいつら昨日のやつらですよね!?」
「グルルルル……ガア!!」
「そのようです、使徒様、従魔になさるならお早く」
ガチンガチン!と爪やら牙やら体当たりやらでシールドに攻撃してくるワイルドウルフ。
「じ、じ従魔にするっつったって」
あわ、あわわわ。サイコロ。サイコロが神具だよなっ?
ポケットから慌ててサイコロを出して握りしめる。
祈る!? 祈るんか!?
「じゅ、従魔になれー!」
ガチン!ガチガチン!!
「センジくん、違うみたい」
ぐおお! この恥ずかしさといたたまれなさ!
壁を引っ掻く音もこわいから余計焦る。
どうしろっつーんだ、サイコロなんて転がすしかないじゃんか!
あっ転がす!?
コロコロコロー……
「「「2」」」
ガヂンガヂン! ガオオオオオオ!
「違うようです」
ヒュインと自動的にサイコロが手にもどってくる。
んああああああ。使えとばかりのこの態度。
「なっんやねん! 取説くれよ!!」
「センジくん落ち着いて。ワイルドウルフは怖い相手じゃないわ、わたしって強いのよ」
だからゆっくり考えていいの。
シールドの内側から油断なく構えてながらも冷静に状況をみていたディアナさんが、こちらを振り返ってウィンクをひとつ。
なんて……
なんて情けないんだおれは!!!
年下の女の子に守られて。あまつさえこんなに気を遣われて……!
頭の芯がが冷えた気がした。
こわいけど、まだ全然こわいけどパニックにはなってない。
ぐ、と目の前のワイルドウルフを見据える。
(朝の決意はどうした男らしくすんだろ千路!)
引けてた腰に力をいれ、脚を開いて踏んばる。
漢なら相撲だと思いつき、四股を踏むように腰を落とす。
薄く目を閉じて、丹田に気合を集中させる。
「やれることをやるんだ、思いついたことぜんぶ試せ」
祈りはした。転がすのもやった。あとは、
「投げる!」
ぶん!
水切りの要領で腰を落としたままサイコロをなげる。
勢いのついたサイコロはオーロラの防壁を突き抜けて、中央のいちばん攻撃的なワイルドウルフの右目の下にコツンと当たった。
ダメージが入るような当たりじゃない。
だけど。
当たった途端、ワイルドウルフを覆っていた黒モヤがはじけるように霧散するのがみえた。
サイコロは地面に落ちず、方向を変えておれの手にもどってくる。腕を引くように掴みとり、間髪いれずまた投げる。
「残り二頭!」
確信があった。
これが正解の使い方なんだ!




