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辺境伯の末娘は逞しい  作者: 鳴滝翡翠
8/8

秘めたるもの


お待たせしてしまい申し訳ありませんm(__)m

とても難産でした…(;><)


待っていて下さった方、拙いですがどうぞよろしくお願いいたします。






私は今、何故か香り高い紅茶を優雅にいただいている。



患者達を癒したあと、王子と宰相(心の中なんだからもう敬称付けなくて良いわよね)の動きはとても早かったわ。

魔法師達に患者の状態を確認させつつ、目にした光景はお触れが出るまで内密にするようにと厳命して、と。

有能っぷりを遺憾なく発揮していたけれど、初めての光景に周りと一緒に唖然としていたのはばっちり見ちゃいました。



まぁ、やるべき事は終わった事だしあとはお兄様達に任せようかしら、なんて思っていた私は王子達によって別室へと連行され今に至っている。

そうすぐに帰れる訳もないわね。

色々聞きたくて仕方ないって顔をしながら王子達も喉を潤しているし。



「……其方、あの力は……」



少々歯切れ悪く王子が話を切り出してきた。

この場にいる宰相が食い入るように私に視線を注いでいて正直その眼光が怖い。

ひとまずカップをソーサーに置いて答えるとしましょうか。



「わたくしの声は少々特殊なのです」



私の声は魔力を帯びていて、言葉を発するだけで魔法となる。

生まれたばかりの頃には微々たる力だったけれど、成長するにつれて発する魔力も大きくなっていって正直困っていた。

何しろ声に魔力が籠っているなんて全く分からなかったものだから、怒って泣き喚く度に周りに迷惑をかけていたのよ。

感情の振り幅によってはポルターガイスト並に物をあちこち飛ばしたり、窓やらをバリバリ割っちゃったり。

良くもまぁ、こんな子供を気味悪がらずに育ててくれたものよね。

魔法がある世界というのもあるだろうけどさ。



ただ、この世界でも初めての事例で対処法はすぐに見付かるものでもなかったの。

お母様やお姉様がいなかったらきっと声を出さないように生きていたかもしれないわね。



「わたくしの声は生まれつき魔力を帯びております。魔力に方向性を持たせることによって魔法として駆使できます」



そう。

属性を持たない魔力だったから、扱いたいものを想像することで魔法となった。

きっかけはお姉様が連れていってくれた草原。

沢山の花の種が植わっているらしく、時期によって咲く花が変わる場所。

とても機嫌の良くなった私は無意識に鼻歌を歌っていたらしいわ。

その時の私は瞼の裏に沢山の花が咲き乱れる様を想像していたの。

目を開いた時、想像を越える美しい光景が広がっていたのには驚いたものよ。

色とりどりの花が咲き乱れていてさわさわ風に揺れている様に感動したのを覚えているわ。

お姉様が興奮気味に教えてくれたのは、楽しそうな鼻歌が私から聞こえてきて私達を中心にざぁっと花が咲いていったこと。



お姉様は私の歌の力だって興奮していたけれど、何しろ目を閉じていたしね。

私は半信半疑だったわ。

そんな私に焦れたお姉様が森へと向かって、一つの大木の前で私にこの木の花を咲かせて見せなさいって無茶振りをしてきたのよ。

その木の花を見たこともないのに。

でも、ぎろんと見つめられて怖かった私は前世で見た桜の木を思い浮かべたの。

鼻歌で花が咲いたなら、歌えばそうなると思って。



結果は咲きました。桜の花が。



歌っている時に私の目に映ったのは花を咲かす大木だけでなく、色を纏う光の粒子と優しい風。とても幻想的な光景だったわ。

それが私の歌で起きている。

お姉様と一緒に興奮したものよ。



最初は植物に関する魔法だと思っていたけれど、頭の良いお姉様は光魔法に似ていると思ったようで、実験をすることになっていったの。

ええ、うちにはゲガをしょっちゅうする人達がいっぱいいるもの。

実験台には事欠かなかったわ。

にやり。



実験の結果はお姉様の思ったとおり。

光魔法も使えた。

正確には光魔法も、よ。

癒すこともできるけれど、逆に攻撃にも使えることが分かったの。

まぁ、想像はついていたけれどね。

だって感情の起伏でポルターガイストが起きていたのよ?



本当の力は魔力を使って想像したことを実現させるものだったみたい。

前世でいうところの「言霊」に似ているわね。

歌は感情が乗りやすかったから最も力を発揮しやすいだけで、言葉でも事象は起きたのよ。

想像力がとても必要だけど。

その点私はファンタジー大好きで、想像力豊かな前世の記憶があったから楽勝だったわ。



「声……ですか?今も魔力が流れている、というのでしょうか?」

「はい。今はコントロールが出来るようになりましたので、周囲への影響はごさいませんわ」



眉間にくっきり縦シワが入っている宰相に穏やかな笑顔で対応する。

でも、本来なら「この小娘は何をいっているんだ?」っていうこの反応が正しいのよね。

例をみないことなのだし。

まぁ、家には例外をとことん行くお父様がいたからかすんなり受け入れられたし、むしろ凄いって褒めて貰えていたからね。

久しくこんな反応は見ていなかったわ。



「範囲はどこまでなんだ?」



宰相の反応に気をとられていた私は、王子の生真面目な声に少し反応が遅れた。

範囲……そういえばどこまでなのかしら?



「……なんだ、分からないのか?」



こてり、と首を傾げてしまったらきょとんとした王子に言われた。

実験は色々していたけれど、範囲についてまでは考えてなかっただけよ。



「彼女が意識をすれば、一国は入ると思われます」



若干むぅ、っとむくれていたら今まで発言を控えていたフラニエルお兄様が王子の疑問に答えてくれた。

気にする間がなかったから知らなかったけれど、かなり大規模なのね。

何の感慨もない私とはうって代わって王子達の顔には驚愕がはっきり出ている。

「ばかな!!」みたいな顔よ。



「それは本当なのか?魔法師団長…」

「アークライヤーの名に懸けて。我らは間近でその恩恵を受けていましたから」



宰相の質問に答えるお兄様は淡々としている。

恩恵、っていうのは大袈裟だと思うけれど、実験台になって貰ってたのは事実ね。



「何故、こちらに報告をしなかった?」

「……いや、理由は容易に推察できる」

「殿下……」



宰相の怖い顔にお兄様は答えなかった。

アークライヤーに比べたら王都は安全な場所で、だけど後世に歴史を伝える王候貴族の守りも重要であるために多くの優秀な人材が集まっている。

只でさえアークライヤーの大きな戦力を王都に預けている状態で、更に希少な人材を渡す訳にはいかなかったのは王子にも理解して貰えたらしい。

人外級の強さを誇るお父様がいるから許されたことであって、本来なら大戦力のお兄様方を三人も放出するなんて敵を歓迎しているようなものだものね。



「広範囲に力を及ぼすことは分かったが、魔力切れを起こすことはないのか?」

「今のところその兆候はありませんわ。お父様が傍におりますので国を覆うような魔法を使ったことがございませんし……魔力の量を推し量るのも難しいのです……」



砦の防衛で戦っていた時も魔法を連発していたけれど、特に魔力が減っているという感覚もなかったわね……。

まぁ、この体はスーパーハイスペックだっていうのもあって気にしたことがない、というのが本当だけど。

お兄様達には魔力量が多い方だと思う、という曖昧な答え方をしなさいと良く言われている。

魔力量が多いだけで、無理難題を持ち掛けられることがあるからだ。



「ふむ…それは考慮すべき案件ですね」



曖昧さが気を引いてしまったらしい。

宰相が何かを考えているようだ。

大方私の力をどう使って国益となるか計算しているのだろう。



「宰相殿、リディア・アークライヤーの力を借りることに関して許しを得られましたが、辺境伯の機嫌を損ねない方が身のためと進言致します」



フラニエルお兄様がそんな宰相に釘をさしている。

生ける伝説と化しているお父様を怒らせたらこの国は跡形もなく無くなるのは正直目に見えてるものね。

伊達に広大な地を賜り、その権力に見合うだけの統率力や力を有している訳ではないのよ。

アークライヤーは知のお母様と武のお父様の下、王族でさえも押さえ込める力を持っている。権力を振りかざすのが嫌いなだけでね。



「そうだな。自重しろよ、ジェイド」



面白そうに笑みを浮かべる王子とはうってかわって宰相は苦虫を噛み潰した顔をしている。

公の場ではないからか、心配事が一つ解決したからか、王子は元より宰相までも少し気を抜いているようね。



「リディア嬢、魔物の生態に詳しいというのは真か?」



気を抜いているように見せてるだけだったのかしら?

夕暮れ時の赤紫の瞳は理知的な光を湛えてこちらを見据えている。



「自他共に認めるほどには。謙遜は致しません。事実ですので」



にっこり、笑顔で答える。

魔物との戦闘が最も多い領地で無駄に戦っていた訳ではない。

武勇に優れているといっても生身の人間。

武器や魔法を駆使して魔物と戦っているが、強靭な肉体が武器の魔物には身体能力で劣っているのだ。

一度戦う術を奪われればあっという間に死が迎えに来る。

何度も目にした光景。

ただそれを減らしたかった。

その為には敵を知る必要があっただけ。

そして、この世界とは違う常識があったことで役に立つ事が出来ると確信した。

間近にその環境があったからこそのものだというのは皮肉なものだけどね。



「ここ10年程、目に見えて様々な変化がありました。そのどれもがアークライヤー領から始まった。魔物についての共通認識、退けるための方法、それによって人々の生活が変わり、明るい顔が広がってきました。みな、名高いアークライヤー領主と奥方のお陰だと思っておりましたが……」

「その頃はまだ幼女だろう?」

「幼くとも聡い者はおります。殿下もそうだったでしょうに」



うーん、本格的に口出すようになった頃からの話かしら?

王子の言うように普通なら幼女が関わっているなんて思わないわよね。

巷で有名な両親もいることだし。

フラニエルお兄様を見れば優しい笑みが返ってきた。



……なるほど。私を矢面に立たせないようにお母様が手を回していたってことね。

やだわ、考えれば考えるほど私ってば相当に利用価値の高い物件じゃない?



それにしても子供が聡明であることに理解あるということは目の前の王子も相当な方なのかしら。

前世の記憶持ちの私はイレギュラーだけどね?



「お求めの答えは良くわかりませんが、アークライヤー家の一員であればお役に立てるよう様々なことを学びます。魔物の生態を学ぶことで最前線で傷付く者を減らせるのであればそれに越したことはないですもの」



そのための努力は惜しんだことはないわ。



「殿下、失礼致します」



扉から早足で執事さんがやってきた。

ひとつの報告を持って。



「討伐隊が戻りました」







難産なわりになかなか進まないという…


次は動きがあるといいなぁー



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