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辺境伯の末娘は逞しい  作者: 鳴滝翡翠
6/8

出発




「リディア、お母様が何を言いたいのか分かっているかしら?」



パチン、と手のひらで扇を閉じてにっこり笑うゴージャス美人。

ええ、私のお母様です。



私は今、自分の部屋にあるウォークインクローゼット、いや、もはや部屋と呼ぶべき広さのクローゼットで侍女達に着替えさせられている。

目の前には笑っているけれど後ろに般若を背負うお母様がいて、冷や汗たらたらである。



「……ふぅ、勘違いしないでね、リディア。お父様もお母様も貴女の行動を縛りつける気はありません。ただ、とても心配しているのです」



お母様は侍女達に指示を出しながら、困ったように眉根を寄せている。怒っている訳ではないけど、私が王都へ行く事にはまだ納得していないみたい。

まぁね、私もアークライヤーから出るのは初めてだから心配な部分は多いけど。



「貴女が思うよりもアークライヤーの外は厳しい所なのです。お父様やお母様が共に社交を教えてあげられるのは貴女が学園へ通うようになってから」

「お母様、そんなに心配しないで下さいませ。確かに社交のお勉強よりも外でお父様とお仕事をしていましたから、不安に思われるのは分かります。ですが、わたくしお母様の子ですのよ。お兄様方もおります」



こんなに心配されるのはお転婆だったからかしら。

普通のご令嬢は魔物討伐に駆け出したりしないもんね。アークライヤーの子女であるお姉様ですら、護身術は学んでも討伐で前線には出たりしなかったし。



……これぞまさに身から出た錆ってやつ?



あ、ちょっと悲しくなってきたからこれは無し。



「………貴女は求められた事柄に対してのみ、誠実に対応なさい」



少し遠い所に心を飛ばしていたらずいっとお母様が近付いてきた。



「いいですね?大人しく、しているんですよ」



わざわざ言葉を区切ってまで念押しをするお母様。

私がとんでもない事をしでかすと思われてるのかしら。そんな事しないのに。

納得は出来ないが一応頷いておく。



「ところでお母様、魔法を行使するかもしれないのにこの格好では少々障りがありませんか…?」



砦から帰ってきた私の格好はアークライヤーの女性騎士然としたかっこいいものだった。

体にフィットして柔軟性のある生地で作成したもので、乗馬をする際も動きやすい。



今私はお姫様になっている。

とは言っても、前世でいうところのプリンセスラインとかAラインドレスではない。あれはとても見栄えがするけれど、正直動くのには適さないものよ。

じっとお人形さんのように動かないで欲しい時には重宝するかもね。



現在私が着ているドレスはスカート部分の膨らみをなくしたエンパイアラインっていうのかしら?

シフォンドレスよ。柔らかくて軽い。

上半身は体のラインにぴったりしたもので、胸元や腰に花をあしらっている。こちらの世界では露出は控えるのが美徳らしいけれど、私には関係ない。

何故なら、前世の知識を生かして絶賛新しいドレスの普及に努めているからだ。



だって、せっかく女性を輝かせるアイテムをカスタマイズできる立場なのよ?使わない手はないわ。

幸い、前世とは違って今の私は最適なモデルだもの!

美しいものをより美しくするのは最早、使命よ。



とまあ、自画自讃になってナルシストのレッテルを欲しいままにしてしまう事になるけれど、前世では専門職とまで言われる服飾に口を出せるって凄い事よね。

こちらでも服飾は勿論専門職だけれど、私、領主の娘なので。権限バリバリ使ってます。



だけど、一気に全部を変えるのはなかなか難しいのね。興味はあれど世間体を考えなくてはいけないって。新しい事を発見したり発明していた人々って本当に偉大だわ。



なので、ドレスに関しては色んなデザインがあるのよ、ってことで専属をつけて貰って発案中。

今着ているドレスも、形は鎖骨を見せるビスチェタイプだけど花をあしらって胸元より高い位置に置いてあるし、肘近くまであるふんわりと膨らんだ柔らかなパフスリーブの形をしている。

実はこれでも露出が高いらしい。



私が口を出す前のアークライヤーでも詰め襟タイプの長袖が主流。袖口はきっちりフィットしてるか、前世の着物に似た広がったタイプしかなかったのよ。



それはそれで禁欲的で清楚ではあるけれど、私が求めてるものとは違っていたものだから、ついつい、オーダーメイドでの依頼で口を出すようになってしまったの。専属の人は困惑していたけれど、新しいもの好きな人だったからもう意気投合してしまって。

あ、今度紹介するわね。



って、まぁそんな訳でこの服装は如何なんだろうか?



「あら、何を言っているの。貴女は大人しく、後方で支援をするのよ」



あらー。

ご令嬢らしくなさい、ってことなのね。

勿論、私だってお母様の言う通りに大人しくするわよ?でも、現場では何が起こるか分からないもの。

ちゃんと用意だけはしないとね。



という訳で、お母様にはちゃんとはぁい、とお返事をしつつ、私専属侍女マーサに目配せ。

お母様と歳の近いマーサはとっても有能で、何よりも融通がきく私の専属なの!

無茶したらとっても怒られちゃうけれど、私の事を理解してくれてるからしたいようにさせてくれるのよ。

勿論、全部が全部オッケーを貰える訳じゃないけど。



優雅に必要なものを仕舞うマーサをちらりと見て、お母様に今の姿を最終確認して貰う。



「とっても綺麗よ。こちらのグローブを嵌めて。きっと似合うわ」



お母様から光沢を抑えた柔らかい素材のグローブを受けとる。手首よりもやや長めのグローブはドレスとお揃いの花のブレスレットを付けているようなデザインでとってもお洒落だ。



「ありがとう、お母様」



私のお礼にお母様からはとても美しい笑顔を頂きました。





















着替えを終えて戻ってきた客間では、とっても紳士なお兄様がすぐさま私をエスコートしてくれた上に、「とっても綺麗だね」なぁんて!キラキライケメンスマイルを披露してくれた。

やだわ、照れちゃうじゃない。



王子はまさか着替えがキラキラお姫様になるとは思わなかったのか、少々ぽかんとしている。



「お父様、問題が早く解決出来るように尽力してまいりますわ。すぐに帰れるように祈っていて下さいませ」



無表情で佇むお父様のもとへ歩み寄ってまたも手を握りしめる。お父様大好きアピールだ。

お父様はふわりと笑んで私の髪型を崩さないように頭を撫でてくれた。



「気を付けて」



私の前にいる時のお父様にしては珍しく、とても言葉少なだけど、瞳の奥がとても心配だと語っている。

永遠の別れでもないのだけど、何だか思いっきりぎゅーってしたくなるわ。

王子がいるので我慢はするけどね。



「王子殿下、侍女を一人つけても宜しいでしょうか。身の回りを任せたいのです」

「構わない」

「ありがとう存じます」

「支度は全て整ったのか?」

「必要最低限のものは」

「足りないものがあれば城で整えよう。フラニエル、準備は?」



私の返事を待つ事なくお兄様へ確認を行う王子。

むーん……上に立つ者はもっと周りへの配慮も必要だと思うのよ。だけど、今回は仕方ないわね。一応緊急ですし。



「転移陣の準備も整っております」



お父様の隣にいるお母様が答える。

お兄様はそれを聞いて王子へと頷きで合図をした。

因みに、移動手段は馬や馬車だけではない。

エルファシオンでは各領主館を結ぶ転移陣が設置されており、一瞬で移動が出来るのだ。ただし、緊急時などの必要な時以外に使われることは余りない。

理由は魔力を大量に必要とするからだ。



今回は緊急時であった為、王宮からこのアークライヤーへ転移陣を使って移動してきたらしい。

勿論帰りも転移陣を使う。魔力に関してはお兄様が請け負うみたい。



私達は地下の広い一室にある転移の間へぞろぞろと移動。どこの領でも基本地下にあるみたいなの。

仮に転移陣を使って襲撃されても長い階段は敵が上に上がるのを阻止できるし、外からの襲撃でも見つけるのに時間がかかるから、とは聞いているけど。

地下と言っても部屋がひとつとは限らないし。



「では、其方らの娘を借り受ける」



私達は大きな転移陣の上に立った。王子はお父様達に一度顔を向け、ひと言挨拶をしたけれど、お父様は無言で頷くのみ。



「頼みましたよ、フラニエル」

「お任せ下さい、母上」



代わりにお母様がお兄様へ声をかけている。

お父様もお母様も私に視線を向けてきたけれど、言うべきことはもう伝えたのでにこっと笑っておく。



転移陣がゆっくりと光り出し、お母様達の姿が光の向こう側へと消えてゆく。

完全に消えた時には上に引っ張られるような感触。

初めて乗ったけど、感覚としては少し動きの速いエレベーターだ。



一瞬の浮遊感、いや、本当に体が浮いてる浮遊感ね。

……聞いてませんよ!?



掴まる場所がなく、上げた手が意味をなさないと思ったけれど、横から腰に手が回されて態勢が安定した。

流石お兄様!



……って思ったけど、見上げた先はお兄様じゃなくて王子だった。

上げていた手も取られていて、こちらを見た瞳がふっ、と笑みの形になっている。

ぱっと前に向き直り、光が収まるのを待った。

ちょっと不覚だったわ。とりあえず小声でお礼を述べておいた。

応えた王子の声には笑みが滲んでいたけれど、知らないふりをしておく。



光が収まって転移陣から降りる時になっても王子は私の手を取ってエスコートをしてくれる。

次いで迎えている人々へ指示を出し始める。皆は王子の傍らにいる私を見てちょっと驚いているみたい。誰も口には出していないけど、すっごくちらちら見られているのが分かる。



「フラニエル、体は?」

「問題ございません。妹が助けてくれたようなので」



あ、ばれないようにしてたのに。お兄様には分かっちゃったのね。

優しい苦笑でお兄様がこちらを見ている。



「……リディア嬢、魔力量はまだ大丈夫か?」

「ええ、問題ございません」



真剣な顔でこちらを見てきた王子に笑顔で答える。

神様に感謝することのひとつに膨大な魔力量を授けてくれたことがあげられるわね。うふふ。



「其方には悪いが、このまま救護室へ向かう」

「はい」



王子にエスコートをされながら目的地へと足を動かした時、前方から右目にモノクルを付けた男性がやって来た。



「殿下」

「ジェイド」



男性の前で立ち止まると、彼は私に視線を向けてきた。



「こちらは…?」

「リディア・アークライヤー嬢だ。今から救護室へ向かう」

「お初にお目にかかります。アークライヤー領主が末娘リディアと申します」



挨拶は大事。

王子に腕をとられたままだけど、優雅にカーテシーをしてにっこり。



「ようこそ、リディア嬢。私は宰相を仰せ付かっているジェイド・エオメルです」



あら、お若いのに宰相だなんて。有能な方なのね。

挨拶もそこそこに王子は私を連れて歩き出す。宰相様は横に並びながら王子にものを問いたげにしている。

多分なぜ私がいるのか?って考えてるのかな。



「殿下、サフィール殿が仰っていたのは妹君だったのですか?」



サフィール兄様がどのように言ったかはともかく、王子曰く魔物に詳しく魔法の素養が高い人物と言われたら正直こんなキラキラお姫様を想像はしないわよね。



「エルディオ殿は否定をしなかったぞ」



ひとつ言わせて貰えるならば、私がいるのにその会話はどうかと思うの。

まぁ、私が二人の立場だったら同じ事を口にしてしまうかもしれないけど。



……あれ、じゃあ仕方ないか……?



ちょっと違うことに意識が向いたけれど、宰相様の視線をばっちり受けて現実に戻った。

フラニエル兄様からは「まったく…」っていうような笑みを貰ってしまったわ。



「では、お手並みを拝見…といったところですね」



ため息とともに小さく呟かれたそれはばっちり私の耳に届きましたよ。

気合いを入れないとですね。はい。



サフィール兄様とジークフリート兄様が戻っていらしたら頑張った分癒して貰おう。うん。



ひとまず救護室へ向かい、やるべきことを成さねば。











胸中でのひとり言が多くなるリディア。

ひとまず頑張って貰いましょう。


実は携帯で執筆しているのですが、不注意で落として割ってしまったので今回は短めでの投稿です。

すみません。



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