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辺境伯の末娘は逞しい  作者: 鳴滝翡翠
3/8

リディアと騎士



さて、構って貰おうと思っても直ぐに実行する訳にはいきません。何故ならお父様にも休息が必要だからです。うんうん、休むって大事。

いくら人間離れした強さの持ち主であっても体を酷使して良いことなんてないものね。



「ねぇ、お父様。お父様も少し休息を取らないといけないわ」



お父様のお膝の上でじっと目を見つめながら伝えると、少しだけ口端が下がった。あら、ちょっと拗ねちゃったわ。



「わたくしもお父様と一緒に居たいのですけれど、お体も心配ですもの」



お父様と離れたくないんだよ?ほんとだよ?と、アピールしつつ伝える。お父様は少し逡巡しつつため息を吐き私を恨めしげに見てくる。仕方ないな、と言いたげだ。



「……ふふ」



こういう時に私ってば愛されてるなぁ、なんて思うのよね。お父様の愛は何だか過剰な気もしない訳ではないけど……。

お父様の頬へ一時のお別れのキスをし、お膝から降りる。さて、騎士達の鍛練にでも混ざろうかしらね。








砦の内側の一角に鍛練場があり、討伐隊に組み込まれず、また割り振られた仕事がない場合大抵の騎士はここで鍛練をしている。私が初めて砦を訪れた時、お兄様方は城だけでなくこちらでも鍛練をしていたわね。

5つ上のサフィール兄様は跡取りとして、ジーク兄様とフラン兄様も将来アークライヤーを守る為に。私は魔法と剣の世界に興奮して自分も混ぜて欲しいとおねだりをしていた。

城でもお兄様方の後ろについて行ってイルマお姉様によくお説教されていたわね。女性には女性の戦い方があるのですよ、って。



……ちょっと待って。

アークライヤーの血筋って本当に戦闘狂なの……?



ふるふると頭を振ってそちらについては考えないようにした。



「おや、姫君」



鍛練場の入口で狐顔の男が声をかけてきた。彼はアルベルト・フォックスナー。名前まで狐っぽい。



「アル。なぁに、もう終わり?」

「ボク、か弱いので」



どの口が言うのか。にっこり、ハートを飛ばすような笑顔で私に並んで鍛練場の中へ向かうこの男はアークライヤーの猛者共をバッタバッタ薙ぎ倒してしまう実力者だ。サフィール兄様と同い年であり、兄様よりも強い。だからこそ兄様が王都で活躍出来ているといっても過言ではないのだ。



「ボクがアークライヤーを守るからお前は王国を守れ」



なーんて、かっこいいよね!二人はお互いを悪友なんて言っているけれど、本当に仲が良くて見ててほっこりしちゃうの。毛色の違うイケメンって目の保養になるわよね。



「アル、暇なら付き合って頂戴」

「うん?」

「鍛練よ」



エルファシオンの人々は大なり小なり魔力を持って生まれる。王侯に従事する者はそれなりに魔力も大きい。特に軍部へ所属する者は魔術を操る者が多く、こうした鍛練場に関しては 魔術鍛練も出来るような仕様になっている。勿論武術鍛練も行えるように武器各種取り揃えられている。



私はどの武器でも戦えるように幼い頃からお父様に鍛えられている。お陰で不得手なものはなく、どれを使っても体が自然に動く。今回は棒術。前の世界でも知られているものだったが、リディアとして生まれ初めて扱えるようになった。槍を扱う槍術、薙刀を扱う薙刀術、そして剣術の基本と言われており、剣を扱う前に教えられたものだ。

戦闘においてはお父様は娘の私にも容赦しなかったよ。周りの方が震え上がっていて、私はとても冷静になれたものだ。



「姫君は基礎を大事になさいますね」



アルが同じく立て掛けられている棒を手に取りながら言ってきたけど、基礎は全ての動きに影響するもの。疎かには出来ないよね。



鍛練中の騎士達に混じって……なんて思ってたんだけど、いつの間にか皆壁際に寄っている。



「あれっ?」

「皆、たまには姫君の組み手を見たいのですよ」



何故?と思わず首を傾げてしまったが、初めて見る顔ぶれもいるので、私の顔見せも兼ねているのかな。

棒術を使った組み手のみのつもりだったけれど、これだけ広く場所が空いたなら魔法も使っていいかしら?

ちらり、とアルを見上げると気付いたアルがまたにっこり笑った。アルって読心術使えるんじゃないかってたまに思っちゃう。



「では、僭越ながら私が審判を務めよう」



筋骨隆々の50代の騎士が出てきた。彼はこの砦の副隊長の任に就くセイドリア・バーン。信頼厚い人物だ。因みに隊長は私の目の前にいるアルベルトである。



手の中の棒を手首の運動としてくるくる回しながら後ろ手にまわして構える。アルは豪快に一振り、後ろ手にまわして腰を低くして構えてきた。



「はじめ!」



セイドリアの掛け声と共に飛び出してきたアルの一撃目を、棒を軸にして側転でかわす。アルはそれを読んでいたようで直ぐ様横薙ぎに一閃。棒を盾に防ぐ。

カァ…ン、と甲高い音が鳴った。アルは間を置かず猛攻を仕掛けてきた。その全ての軌跡を見極め防いでいく。カンカンカン、と立て続けに音が響いた。

アルの一撃の隙をついて、深く持った棒の先端でアルの棒を跳ね上げる。その一瞬で後ろへ大きく宙返りをして距離をあけた。



アルも容赦ないよね。打ち合いで手がびりびりしているわ。全く、一応私女の子よ?それも滅多に見ないくらい可憐な見た目をしているのに!私だったら躊躇うわよ。



アルは仁王立ちになり、両手で棒を持って地に打ち鳴らす。唇が動き、彼の背に魔方陣が現れ、光る十数本の武器が浮かび上がった。いきなり高度なやつ!



本当に容赦ないな……っ!



それらが私に向かって飛来してきた。迫るそれを棒を軸にしながら紙一重でかわしていく。5、6本かわした所で棒高跳びのように上へと体を反らし空中へと逃げた。だってあれかわすのしんどいっ!

なんて、思ってたのに追いかけるようにして軌道が変わった。こらーっ!



直ぐ様重心を後ろにして1回転するように落下する。右足に魔力を込めて地を打った。魔力を通した地面が私の頭上まで盛り上がり飛来する武器を防ぐ。それを見届ける前に横から殺気。アルが横に棒を振りかぶっている。ひーっ!



ヒュッと棒が空を斬る音が後ろからした。



……あ、無意識に瞬間移動しちゃった……。



振り向いた先のアルと目が合った瞬間、ヤツはにやりと獰猛に笑った。ぎゃーっ!


















僕の名はクリス・レンバール。アークライヤー領の貴族レンバール家の三男である。

僕は今、目の前の光景に口が塞がらないでいる。アークライヤーの姫君と我等が隊長の一対一の組み手が見られると皆で隅に寄ったが、正直姫君に関する噂は眉唾物だと思っていた。



砦で従事する事になって一番始めに聞くのは領主エルディオ様の武勇伝。そして皆二言目には末姫リディア様の事を口にするのだ。

齢4つの時より筋骨隆々の騎士達に混じり鍛練を行っていた姫君は、父君によって厳しく育てられていたそうだが、1年の間に武器の扱いを覚え、2年の月日を過ぎた頃には全ての武器に通じたのだとか。



4つ5つの、しかも女の子が?

俄には信じがたかった。僕でさえ剣の扱いを覚えても未だに他の武器を扱える訳ではない。それを小さな女の子が出来たっていうのか?

また、魔力が豊富で魔法の扱いにも長けているのだとか。これに関しては魔力量に個人差があるし、一概に否定は出来ないが、そんな子供がいるものなのだろうか?



いくらアークライヤー家が特別な家系だとしても、姫君と直接接したことのない騎士の成り立てである僕や同期達は正直半信半疑だった。



今日は姫君が来られる日で、僕達が姫君に初めて会えるかもしれない日であった。割り振られた仕事によっては会えないかもしれなかったからだ。だが、同期達皆で訓練を行う事になり、副隊長にしごられる日となってしまった。今となっては姫君への顔見せの目的があったのだと分かる。



フォックスナー隊長と鍛練場に入ってきた姫君はその場にいるだけで光輝くようなお方だった。

銀糸の長い髪を一結びにし、動きやすいようにか我々騎士隊の制服を着ている。彼女のサイズで仕立てたものなのか、美しいプロポーションにフィットしていて見事に着こなしている。目が奪われるとはこのことか、と実感した瞬間だった。



棒術で隊長と組み手を行うと分かった時、副隊長が僕達に良く見ておけ、と言っていたがこの時でさえ僕は姫君の可憐な様に武術が長けているイメージが湧かず、隊長が手加減をして相手をするのだと思っていた。



だが、どうだろうか。

あんなふうに戦っている隊長は領主様と鍛練をしている時か、初めて討伐に同行した時にしか見たことがない。つまり、本気で、手加減などせずに相手をしているのだ。剣の一振りで魔物を屠れる人と、あの可憐な姿をした姫君が対等に渡り合っている。

正直目の前で行われていることが信じられない。

隊長の放つ攻撃を余裕綽々でかわし、繰り出された高度な魔法に対抗し詠唱もなく魔法を操る。

あわや、というところで希少な空間魔法であるテレポートを行う。信じられなかった。



攻勢に出た隊長の攻撃は全て紙一重でかわし、これまた希少な氷魔法で隊長の動きを封じる。隊長が火魔法で打ち消す前には勝負が決まっていた。



あの方がアークライヤーの至宝。

武に、魔法に通じその力で持って我等アークライヤーの民を守ってくれたと聞く。人々の生活に根付く魔法を別の形で生かすよう進言したとも、アークライヤー領が魔物との戦いで疲弊していたのを数年の間に盛り返したのは姫君だとか……目の前にいる存在が肯定を示していた。この方ならばそれも出来るだろうと。



「此度は姫様の勝ちのようだな」

「あら、伊達にアークライヤーの猛者たちに鍛えられていないのよ。勝って当然だわ」



副隊長の言葉に息を切らした感じもなく答える姫君は、とても傲慢なことを言葉にしているのにしっくりきてしまうのは何故なんだろうか。



「はーっはっはっはっ!皆、この方がアークライヤーの末姫、リディア様である」



腕を組み、高らかに笑いながら、それでも僕達に紹介する副隊長の声には姫君を誇るような気持ちが滲んでいた。



「このような格好で申し訳ないわね。わたくしがリディア・アークライヤーよ」



名乗った姫君に自然と僕達の背が伸びた。緊張感が今になって出てきたのだ。



「皆、新進気鋭の猛者と聞いているわ。アークライヤーには強者が揃い踏みよ。その技を盗み、自分のものにして新たな強者となりなさい。皆の英姿を期待しています」



その言葉にはとても力があった。

居並ぶ騎士達を誇り、僕達新参者にエールを贈る姫君の瞳は強い光を宿す太陽の色をしていた。



その瞳を見た瞬間、僕はこの方の為に本物の騎士になろうと思った。この方を護れるように。



僕達は自然と右手を左胸に当て騎士の礼をとっていた。










この親にしてこの子あり、を見事に貫いているリディア。そして、見事な勘違いをされるリディア。

突然騎士の礼をされて驚いています。


なかなかストーリーが先に進まない……(--;)





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