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海の沈黙

作者: 新染因循




漣は失望のように浜辺につもる。

明日を生きる人を海は拒み、

明日を生きる人は

風に回想をたくして空に去った。

思い出したい人が海を受けいれ、

漣はやはり、つもるばかりだ。


空と海の響きあう水平線を

こえても雲は、海藻は、

ゆれるばかりの

在るばかりの

沈黙


海に近づくと一瞬の真空がある


考えたことがあるか、

空と海の屈折率を、

くりかえされる一日と、

その切断と境界を。


空と海を別つものは

沈殿した時間の

硝子めいた煌めき、


海硝子はいずこの海流に漂い

いかなる波と砕けたのか。


白浪が大地に砕けちると、

水面は形を遡行しないで

ただ渦を巻くように、

思い出は、白むばかり。


いつかの海面が剥離して空になる。

空は欠けらになって暮れていく、

忘れられたさいごの空を

瓶に掻きあつめると夜になる。


夜は、

名を失くした亡霊たちと

いまだ言葉たらずな沈黙を

たたえて、深く、

深く


いつだって便りは

記憶の底から響いてくる、

潮騒のように、泡沫のように、

囁きさえ残さないで、

浮かびあがっては

かき消える、

やむことのない流れに……


そして大口をあけた底抜けの

海が、

海だけが残る。


海だけが残ると、

忘れたい人が来る。


忘れたい人は沈黙して、

沈黙し、


海になる。




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