時計
時計
翌朝、殺人犯は逮捕された。少しの罪悪感もなかった。衝動的とはいえ、どうせ殺したのは少しも生気のないニヒリストだから、生きる値打ちのないやつだ。社会に不要な人間だ。検事の質問に正確に答えた。少しも声が震えることはなかった。
ききおわると、検事はほっと息をついた。[そうか、それで分かった。裁判は万事うまくいくだろう。]と笑みを浮かべた。自身だけはとにかく正義の中にある、という自覚のあるものだけに許された笑みだった。弁護士の立場からすれば、自身の職務は官僚的に裁判を進めるだけだから、手回しよくやればよい。事件全体の流れを把握し、その法的な意見を組み立てたところで満足していると見える。いっちょあがり!
何がうまくいくのか?彼はベルトコンベアーに乗せられたブロイラーを想起した。彼は生まれてはじめて、社会という機構の冷たさを知った。
それどころか、心に余裕のでた判事達は意味のない質問をしては証人にしゃべらせ、遊びはじめた。[被告についてどう思われますか?]召喚されたのは、被告の母だった。[正人は、大変家族思いのいい子でした。]おかあさん、彼は涙が出た。[ふふん、それで?]判事は笑っている。大勢の前で言わせるなんて。これじゃあ見世物じゃないか?
彼は恐らくはじめて、法律に血の通っていないことを知った。それにしても時計の音がうるさい。気のせいだろうか。被告の気を滅入らせるために?または判決に華を添えるために?
正義の歪み。神は死に形は残る。