第六話 世界が彼等に反抗中!壱
短すぎる
いろいろ詰め込んでたんでね
「遍く世界で、人は一度だけでも、何かを信じようとする。死んでもまた来世で違う人となって生まれるさ、と最終的なゴールの後も考えてしまう。
人生のなかで人は一度、反抗期と言うのを迎える。
反抗期とは、自らを取り巻く環境において、自分の意見と一致しない者や、感情に背く物事に意味もなく抗う時期のことである。
他者から目標を決められると、達成させず後になって御託を並べる。
だいたいの言い訳の内容の本質は、自分は失敗しない、というもの。つまり、彼らにとって失敗とは、自分以外の人間の失敗による誘発即時効果でしかない。
わかりやすく言うと、自分の失敗と思わしきものは、すべて他人の失敗のせいによるものである、ということだ
彼ら曰く、彼らは失敗せず、回りにいる人はすべて第三者である
反抗期とは、こういうことである。
こんな時期が人間に設定されているというのは、実に悲観するべきことなのだ
人生一度きりなのに、こんなにも時間を無駄にすることはあるだろうか。
神様は以外と残酷だ」
「ヒビキはさっきから何、ぶつぶつ言ってるんですか?」
「世界の普遍的な考えに終焉を迎えさせる方法を考える、第一巻、はじがき」
「図書館の本ですね、まだ返してなかったんですか?督促状が何通も届くのはもうごめんです」
現状、メルの家には毎月、山のように督促状が届く。ヒビキが今までに借りた本は百数冊、返した本は一冊もない。すべての本を、何周も読み返し、欠如した自分の記憶や転生輪廻の詳細を調べている。
「本の虫になるのはいいことですけど、人の所有物を借りっぱなしにしたら犯罪ですよ」
「犯罪なんて犯してなんぼだろうっ!」
キリッ。ヒビキは本に目を戻す。ヒビキは、朝起きたら、すぐ本を読み始めるのだ。
「まったく、ま、督促状は何とかしてくださいね 。返さないと逮捕ですからね」
「大丈夫ダヨ。カナラズ、アサッテクライニハ、カエスヨ……」
翌日、ヒビキは渋々本を全冊返した。
「ったく。読本ねぇじゃねぇか!」
「私の部屋に御伽噺なら数冊ありますよ。悪魔の巣窟探検、とか」
「む、読んでみる」
たいして興味は沸かなかったが、読まずにだらだらしてるのも暇すぎる。ヒビキはメルの部屋へ歩みを進めた。
一般的な木造建築で、二階にメルの部屋がある。頼りない木の床はミシミシと音をたてて、ヒビキを歓迎する。
吹き抜けを通りすぎ、メルを先頭にミシミシとなる床を歩き続ける。
「お前の家、こんな長かったっけ?」
「天井が低いからそう感じるんですよ」
五分。
「明らかに長い気が…」
「勘違いです」
即答され歩き続けるも五分。
「メル、」
「勘違いで」
メルの回答を遮り
「待て、この絵はこの家に何枚あるんだ?」
ヒビキは右側の壁に飾ってある、水車の油絵を指差す。
「一枚ですよ、私の伯父が書いたんです」
「もう少し歩いて、同じ質問をする。だってもし、もう一度俺が質問したら、おかしいはずだ」
五分。
「メル、この絵は何枚あるんだ?」
本日二回目。
「それは一枚で…。あれ?」
「おかしいだろ。この絵はさっきも見たはずだ。同じところを何回も通るほどこの家は複雑じゃない」
「何ででしょう」
メルは首を傾げる。
「まったくもってわからん。別に空間が歪んでるわけじゃないし。それとも俺の…」
「能力だとしたら迷惑過ぎです、もっと考えて使ってください」
何の変哲もない廊下。壁にかかる水車の油絵。ほんの少し隙間が空いてる扉。
沈黙がこの場を支配する。
世界に誰にも止められぬ絶対的な権力をいつでも行使できる者がいるのなら、それは沈黙だろう。
瞬く間に世界を変える。誰も声を出さない空間を制作できる能力。その効果は空間を作るにとどまらず、空気を悪いものに変える効果も伴う。
逆説的に言えば、沈黙に勝利できるものこそ、最強なのだ。
しばらくしてヒビキが声を発す。
「あ、あの、戻ってみるか」
「戻れるのなら」
お互いに微妙な空気を感じながらもとりあえず、二人は階段へ向かった。
「いやいや、同じだよ。このドア何回見たと思ってんだ」
白いタオルがドアノブにかかっている。
まったく同じ。
タオルの位置ですらまったく同じ。
風はこの空間において、無意味であることを意味していた。
彼らが歩くと彼らは戻る。
彼らが戻ると彼らは進む。
彼らが抗えば、彼らは何もできなくなる。
彼らが黙れば、空間はようやく彼らを許容する。
沈黙が流れ込む。
ヒビキが気付く。
「世界が、反抗期だ」
五点五話の続きはいつしか