第三話 移動先から脱走中!/天界で相談中!
メルの話が主になってしまいました。
注 いろんな文化の考え方が融合しオリジナルとなっています。ご了承ください
「ふはははははははは!よくやったシロウ!貴様に期待以上の褒美をやろう!」
「ありがたき幸せ。では私は己の職務に戻ります」
「よろしい。褒美は執事を通してあとでやる」
ここは一体?考える前に周りを見回す。メルが立っていたのは、大理石でできた大きな柱が奥へ奥へと並んでいる宮殿のようなところの玉座の前、レッドカーペットのうえに立っていた。一緒にいた黒いローブの男は、職務に戻るといったとたんに消えていた。戴冠式の様子がカラフルなステンドグラスで描かれ、その前に、どっしりとした大理石でできた玉座。そこにふんぞり返っているのは、髭をたくさん蓄えた小柄で太った老人だった。赤く、金色の鷲の紋章が描かれたローブがその老人を偉く装飾している。
さらにレッドカーペットに沿うように、鎧姿の兵士たちが武器を持たず立っている。
「あ、あなた…は?」
「おおおお!わしの好みの声じゃ!!そして顔立ちも悪くない」
「誰も顔評価をお願いしてませんよ」
最初は不安げなメルだったが、老人の大きい態度に不安が解ける。
「それに生意気ときたか!あいつにはもっと褒美をやらんとな」
「あなた誰なんです?」
「ほほほ。名乗るのを忘れておった。わしの名前は…うん、えーと…そうだな…星読み王子と呼びなさい」
「それ名乗ってないじゃないですか!っていうか、王子にしては年を偽りすぎですよ!せめてあと50歳若返って下さい!」
「まあまあ、わしは諸事情により名乗れないのじゃよ…。では、貴様の名前を名乗ってみよ」
「ごほっ。私の名前は、メル…いや、そうですね。えっと…うーん…東の巫女とお呼びください!」
彼が名乗れないのなら自分も名乗らないほうが身のためだと判断。だいたい誰だか知らない人に本名を公開するほうがおかしい、メルはそう思って適当に最近図書館で借りた本の登場人物の名前を出した。
「貴様も名乗れないのか…。まあ、わしもそこまで強引ではない。いいだろう。では貴様をここに呼んだ理由だが……。わしらは星読みの乙女という、団体なのだよ」
「星読みの乙女?天文学でもやらせようというのですか?」
「何を言っているのだ!天文学など暇を持て余した隠居した爺共がやる気休めにすぎん!私たちはそんなことなど興味など沸かんわ!!」
「ずいんぶんな言いぐさですね。天文学者に恨みでもあるんですか?」
「わしらの入団条件は男のみ!それも既婚者ではなく、歳も80を超えた者のみだ!」
「私はなんなんですか!私をどう見たら80歳独身男性に見えるんですか!」
「貴様を勧誘しようとなど微塵も思っていない。ただ我々の活動上貴様のような者がどうしても必要があるんだ。そしてその活動内容なんだが…」
…それはこれまでメルが耳にしたこともない事だった。いや、耳にしたくなかった。入団条件が結構注文の多い理由もわかる。むしろそんな団体がこの世にあっていいのかさえ疑問に思った。
メル・アルビーネは何も言えなかった。
星読みの乙女とは大層な名前を付けたのは誰かと問いただしたくなる。
あんなに天文学者を侮辱した割に自分たちが侮辱されるにあたる団体だということも気づかないとはどれだけ愚かだろう。
彼らの活動内容は…
「高い報酬で本格的な魔術を使える者と厳選されたエリート情報屋を雇い、この国にいる年齢が16歳未満の少女、まあ実際は12、3が望ましいがその子たちをここに連れてきて、おじさん達の遊び(けんきゅう)をする団体じゃ。まあその具体的な内容は超機密事項なので言えないが…じゅるっ」
舌なめずりをする様子から星読みの王子をはじめとする団体の関係者はまともな頭をしていないことがはっきりわかった。
「そそそそ、それってただの、独身でただただ都市食ってった哀れな男性の己の欲望に正直になりすぎた奴の成れ果てじゃないですか!!ななな、何を言ってんだてめぇら!!」
極度の恐怖感情としょうもなさすぎる理由を聞いたときの落胆とが混ざり合いどんな感情表現をしていいかわからなくなって処理落ちした脳が体を動かした結果、とにかく怒鳴ることが表に出た。
「きききき、気持ち悪すぎます!!さっさとここから出してください!!付き合いきれません!!」
「じゅるっ。まあまてって!そう慌てる出ない少女よ。いっぱい遊ぼうではないか!」
「キモ過ぎんだよクソ爺!!!!」
今ある力いっぱいに星読みの王子の顔面めがけて右ストレートをかました。右手が空を斬った時、星読みの王子はうれしそうに玉座に倒れた。
「どわああっ!なな、なんていいんだ!少女からの攻撃はとても柔らかいものだぞ!」
星読みの王子の仲間が玉座周辺に集まる前にさっさと逃げようと奥へ奥へと柱が続く方向に走る。
「おい!護衛!研究素材が逃げるぞ!捕まえろ!!」
星読みの王子がポケットから鈴をだし鳴らす。
「はっ!かしこまりました!いくぞ!お前ら!彼女を抱きしめるように捕まえるんだ!こんなチャンス二度と来ないぞ!」
全身鎧姿の護衛達は年齢は若かったものの発言がひどかった。ここに努める人全員頭がイッてるようだ。
レッドカーペットの外側にいた護衛は瞬時にメルに体を向け、迎撃態勢に構える。
メルは囲まれた。ネズミ一匹入れないくらいに護衛が重なり、まるで一つの芸術作品のようにきれいな円になっている。
「どど、どうしたらいいんですかこれ!」
「よーし!一気に抱き上げるぞ!!!」
一番内側にいる護衛の一人が言った。
「たたたた、助けてください!!!」
出る限りの大きさで叫んだ。「助けて」がこだまする。
その時。
「ったくうるせーな。だれだよ問題起こした奴。出て来い!!」
「わ!若旦那様!!!たった今我々の貴重な研究素材が逃げだそうとしていて!」
一番外側の護衛が答える。
「あん?研究素材?そうか…あのロリコン爺はまだ幼女拉致ってんのか!」
「ロリコン爺とはなんだね!私は幼女好きではない!現にそいつは16前後ではないか!」
「それはそれは失礼いたしたな!でも若い子拉致ってんのは変わんねぇよ!!」
誰だか知らないけど一人だけまともな人間がいたとメルは安心する。この世はまだ大丈夫だった。彼のような人間が一人でもいれば未来は明るい。メルは胸に手を当て、ほっと息を吐く。
「いいかてめぇら!!俺の最強の破壊魔法で神様にご挨拶したくなかったら今すぐここから出てけ!」
「はっ!はあ!失礼しました若旦那様!われわれは今すぐこの場から立ち去りますのでどうかお許しくだ…」
「何を言ってる腰抜けどもめ!貴様らは限りある己の命に変えてでも欲望に正直になるのではなかったのか!そんなんだから若くてもダメなんだ!男なら一つの事ぐらい諦めずやってみろ!!」
その言葉、もっと違うことに使ってください。メルはあきれ果た。その場に足を抱えて、頭のおかしい護衛の群れが塵になるのを待つことにした。
「そうか!てめぇらは自分の欲望だけでなく自分以外の人にも馬鹿正直になろうってか!いいぞわかった!俺は貴様ら愚人どもを塵にするのをいつしか実行すると夢見ていたが、まさかここで叶っちまうとはな!いくぞ雑兵ども!歯食いしばれ!!」
やたらビックリマークが多い発言を後にして彼の手からは巨大なルーンが出現!火の粉をまき散らしながら地を這う火からなりしトカゲは雑兵たちを潰しながら宮殿の廊下を進む!雑兵が織りなした芸術作品のような円は儚くも一瞬で塵と化した…。
なんてうまくいかぬのが現実。威勢のいい彼の発言の後、ルーンは出現せず痛い発言の余韻がただただ場の空気に流されるまま消えていった。
「あれ?まってくれ。ちょっとやり方をミスったらしい!もう一度」
「そうか!てめぇらは自分の欲望だけでなく自分以外の人にも馬鹿正直になろうってか!いいぞわかった!俺は貴様ら愚人どもを塵にするのをいつしか…」
「何やってんですかあんたは!!!!」
メルは護衛の向こうにいる彼に向って怒鳴りつけた。
「やっとこの下種共から逃げられると思ったのに!期待外れとかレベルじゃないですよ!!」
「は!?何言ってんだお前!助けてやろうと思ってやったんだぞこっちは!無料奉仕だよ!慈善事業だよ!ふざけんな!!…わかったよ!そんなこと言うんだったらもう助けてやんねー。いいよもう。じゃあな」
一番まともじゃないのこいつだった…。メルは完全に落胆した。
よくよく考えてみたら見ず知らずの姿も見えない男に自分の身の安否を預けるような事するのは馬鹿だった。もっとよく考えみると元をたどれば、ヒビキが変な夢見て図書館で大声出して捕まったからだ。メルは絶望にどっぷり浸かった。また。
絶体絶命…。この後百を超える欲望むき出しの野獣に弄ばれるだけだ。覚悟なんていらない。というよりさせてもらえないだろう、こいつらには…。
しかし誰も動かなかった。メルを取り巻いていた護衛達も若旦那と呼ばれる者の方に体を向けて停止している。星読みの王子は玉座に座ったまま何もせずじっと男の方を見ていた。
「なあ、俺この空気居づらいんだけど…」
「お、俺もだは…」
「俺ちょっと具合悪いわ…」
いきなり護衛達がそれぞれ適当な理由を吐いてどこかへ行ってしまった。すると今まで見えなかった「若旦那」の姿が見えるようになった。
銀色で長めの髪。青眼で割と長身だった。白と黒の縦じま模様のYシャツに黒いベスト、黒のズボンを着こなしていた。
ゆっくりと星読みの王子が座る玉座に歩くと星読みの王子は淡々としゃべり始めた。
「若旦那こと、アルジ…。貴様は私の甥にしてここの次期団長。魔術を使おうと思ってもできるのはその場の空気を微妙な物に変える事だけ…。いつしか街のみんなには不名誉なあだ名をつけられる始末。一度興味をもったことも一度挫折するとすぐ諦める…」
「失礼な!俺はそんな能力は使えん!魔術だか魔法だかの研究会会長から直々に魔術を教わっているのだぞ!」
言い合いの中二人の間に黒い煙が立つ。ふたりが咳き込む。
「アルジ。魔術とは安定しないものだ。センスがないならやめてもいいのだぞ」
メルを連れてきた黒いローブの男が裸で出現した。
「やめない!絶対やめない!容姿端麗で超切れ者の俺が魔術を使いこなしたらぜってーかっこいいって!師匠さん、自分の教え方が悪いからって諦めんなって!男なら一つの事ぐらい諦めずやってみろ!!ってな」
「「「お前がいえねぇーだろ」」」
見事に星読みの王子、黒いローブの男、メルの言葉が合わさった。正論中の正論。普通ならいい返そうにもいい返す言葉がなくなるはず…なのだが。
「どうしたの!三人そろって!仲良いの?お前ら。そんな俺の悪口いわないでよ。世間は俺が諦めがはやいって言うけどそれって、いつまでもこだわらず、次に行動!が好き、とか、一気に集中してものごとをこなす、とかっていう長所じゃね?悪く言うことないでしょ。あと師匠、黒いローブを煙にして登場するときは場をわきまえよう!」
メルは頬が紅潮していたが、アルジのクズ具合が勝りそんなことはどうでもよくなっていた。
「ふっ!男に恥じらいなどない……。メル・アルビーネ、貴様の事はすでにエリート情報屋を通してよく知っている。正直こんな茶番を見せてしまって恥ずかしいのだが星読みの乙女会というのはもっとまともなところだった。それだけ覚えておいてくれ。なんせ貴様の友であるヒビキドとかいう男もここに所属しているからな」
「それってまともなんですか?あいつはまともなんですか?信用できないんですが」
「安心しろ。いまはこの爺が団長でいかがわしい団体だという風に思えるが、実際は星読みをして己の運命を知り、輪廻転生を信じる者が集う団体だ」
「輪廻転生…。ヒビキがそんなことを信じていたとは…」
「図書館で叫んでいたところを見ていたからな。ついでにこのじいさんにも少女拉致命令がでていたからそれついでにな。すまない今すぐ家に帰す」
「待ってください!牢屋に閉じ込められていたヒビキも一緒に…」
「牢屋にお前以外いなかったぞ?」
メルは首を傾げた。
天界にて・・・
「ということがあったという噂じゃ」
「最強の能力をですね。魂が予測不能な行動をした時に得られる能力…。憧れる」
「それがお前なんじゃないかと思うんじゃよ」
「秘められし力…。俺は潜在能力を覚醒させることができるのか?」
「まあ、そんな感じじゃよ」
「やるしかない。やってみるぜ俺!」
「具体的な想像はそう容易いことではない。違う場合の方が多いし…」
「俺はやるぜ!だって…」
「だって…?」
「人生の中で俺は、最強の主人公を演じたいからだよ!!」
いつこんなテンプレセリフを知ったのか、ヒビキはキャラが激変したようにイケメンなセリフを吐いた…吐いてみたかった。
天界の話は四話に持ち越そうかなと思っていたんですが、ヒビキの話を一区切りつけたかったので付け足しました。同じような会話のダイジェストを四話の冒頭に書こうと思います