第一話 俺の能力思考中!
初投稿です。連載小説なのでこれからよろしくお願いします。
この世に生きし物全ては、死を迎える。それを快く迎えるか否かはその人次第だが、その後また意識を持って地上に降り立つか否かは決めることはできない。
天、人、修羅、畜生、餓鬼、地獄の中から、死んだ道から順に転生していく。例えば人は1回目の転生で修羅道へ転生することになる。ここでは終わらない戦いに日々血を流し続けることになる。
人間がいくら天国に生きたいと願っても1週近くかかるといことだ。
そんな輪を流されるままに魂はさまよっていく。その存在が忘れるまで魂は朽ちず、回り続ける。延々と……。
しかし、抗う者がいた。
神が生まれるはるか昔から決められた絶対的ルールに
修羅道行きをキャンセルした者。
新たに人へ生まれ変わることを強く願った者。
幾万の霊魂が流されている濁流を鯉が滝を登るが如く逆らい、元来た道を辿っていく。
魂を掻き分け掻き分け
眩しい光のその先は
彼が望んだ世界ではなかった……
俺は最近死んだらしい。
何かしらの事件に巻き込まれて、なんかしているうちに倒れた?
記憶が曖昧すぎて考えることも諦めたくなったが、わからないと心のわだかまりが消えない気がした。納得がいかない。あまりにもあっけなさすぎて、最期にカッコいい決め台詞ぐらい吐いてみたかった。かっこいい肩書きにも興味ないし、評価されたいわけではなかったが、ただただ何か行動したくてたまらなくなって体が無意識に動いていたことは覚えている。
空は見えなかった。確か蛍光灯があった気がする。最後に見た光景は大分殺風景だった。
俺何してたんだっけ?
地平線しか見えない大草原の大海原に立ち尽くしながらふと考えてみた。
てか、ここどこだっけ?
空からあたりに目をやると、そんな疑問が頭に浮かんだ。
太陽が真上にあって風も吹いてないのに、なんでこんなにも肌寒いんだ?
頭上を見上げ、しわを寄せて考える。
っ
草原に突っ立ていた彼は、ようやく一つの問題を解決した。
あ、俺、裸だわ
自覚した刹那、冷たい風が彼の素肌を撫でた。
それが全ての始まりだった。見事彼は人間として転生した。
無理矢理転生した代償は全装備リセット。つまり服は存在しないものとして消えたということだ。
輪廻ルールを破った最強の異端児、響戸太一は全身草にまみれて歩き出した。
1年後……
「俺は気付いちまったんだよ!」
ドッと木製のテーブルを叩きながら嬉しそうに話した。
「俺は自らの力によ!」
「そうですか。よかったですね。本当に」
「待てって!そんな可哀想なやつを見る目で見ないで!」
彼が話しかけている相手は、彼が最初にこの世界であった人間。その名はメル・アルビーネ。茶髪のセミロングヘアで青眼、シルクのように透き通った白い肌を持つ16歳前後の少女である。
「ヒビキは可哀想なやつです。1年前全身草姿で城下町の東門をくぐって来た時は、マジで悪魔かと思いましたから」
「あ、あれはなんつーかその…たまたま裸だったからその辺の草で妥協したっつーか…」
「的確に説明できないなら言い訳はいりませんよ」
「言い訳じゃねー!」
「静かにしてください。ここ図書館だって忘れてました?」
「わ、忘れて………ません」
立っていたヒビキと呼ばれる男、すなわち響戸は辺りを見回してからスッと座る。
壁が本棚になった筒型のこの図書館は、天井から一階まで吹き抜けで、二階から最上階の五階まで狭い通路が輪になって本棚の内側に設置されている。そのため一階で話した場合、最上階まできこえてしまうのだ。
「大体ここに何しに来たと思ってるんですか」
「俺の秘められた能力が開花したことを裏付ける証拠探しだ!」
ヒビキの勢いの良さにメルはやれやれと首を横に振った。
「概ね間違ってませんけど、別に証拠を探しに来たんではありません。あなたが言っている死後の転生までの間について調べに来たんです」
「ふっ。俺の秘められた能力に嫉妬していているのか少女よ!運命とは実に厳しいものだ。まあ、落ち込むでない。貴様もいつか己の運命を受け止められる日が来る」
メルが一つため息をつく。
「あなたが言う、その六道を自由に行き来できるようになった能力が本当でも、わたしはその能力のメリットを感じませんし、あったとしても正しい使い方を考えるべきです」
そう。ヒビキは一週間前、天界について考えていた時まばゆい光が身を包み雲の遥か上、青空が広がる世界へ飛ばされたと言うのだ。そこは雲でできた大陸のようで、銀の装飾が太陽の光を反射し神々しい光景だったらしい。肉体の概念を捨て自分の霊魂を解放し、自らを清めながら過ごす平和過ぎた世界。
そしてその二、三日後。ヒビキは恐ろしい世界に飛ばされた。
鬼の形相をしながら、血塗られた刃が欠けた鉄剣でお互いを傷つけ合う世界。頭に戦う事しか浮かばなくなる恐ろしい世界だった。
その次の日は動物になり、その次は無性に腹が減り、そのまた次は、体を次々に痛めつけられ身を滅ぼされる……
ということがあったらしい。
「それは寝ている間ですから、夢の確率の方が高いんですけど」
「夢じゃない。絶対の自信あるもん。あんなに痛めつけられたりしたら目が醒めるし。起きたらいつもあの草原に突っ立てるし」
「よく朝までに戻ってこれましたね」
「たまたまその日、今まで考えもしなかったような世界を目に浮かべると、飛ばされるんだ。きっと」
「でもそんなの力って言えませんよね。だって苦しいだけじゃないですか。それともあなたマゾっけ…」
「ないないないない!絶対ない!そんな可哀想なやつじゃないよ俺は!」
「静かに!」
「これは何かを示唆しているんだ。あの世界のどこかを救って欲しいとかそういうの。俺は求められている気がする。あの日記憶がぶっ飛んで、裸で突っ立ていたのも何かメッセージがあるとしか思えないんだ。きっとこれは神様が与えてくれた最強の展開なんだ!きっと!」
ドッとテーブルを叩いて立ち上がる。もう彼の頭に、周りのことを考えようという思考はなかった。ただ己の運命にビリリと刺激される何かを感じずにはいられなかった。
「行こうメル!俺が見た世界へ一緒に!」
「な、何言ってるんですか!そんな都合よくいけるんですか!?」
「俺の能力だからな!」
メルの手を強引に引っ張ると彼は思考した。
あの平和すぎる世界を。
神々しい光景を一度メルに見せてやりたい。そんな考えが頭をよぎった。
「行くぞ!理想郷へ!!!」
響戸太一、自身が覚えている年齢は18前後。中肉中背の彼が思考することは、宇宙より広いのだろう。
自信過剰な彼が体験した世界へ
メル・アルビーネとともに彼は旅立とうとしていた。
「そりゃああああああ!」
大声で叫ぶと彼の意識はなくなった。
目を開けるとそこは…
石レンガで囲まれた刑務所の檻の中だった。最初は受け止められなかったが、意識がはっきりしていく内に、自分が置かれている状況を理解し始めた。
「俺は、どうしたらいいんだ。あれは全部夢だったのか?だとしたら、俺やべーやつじゃん。図書館で叫びまくって…何してんだ俺!」
「逮捕ですよ。図書館で決められた回数違反すると治安維持部隊が呼ばれちゃうんですよ」
「メルか!そこにいるのか!」
石レンガの壁を挟んで先からメルの声が聞こえることに、とても安堵した。
「ただの夢だったのか………まあそう都合よくいかないよな」
「いえ、そうではありませんでした。わたし一瞬でしたが、白銀に輝く何かを見た気がします」
「そういうのはいらないよ。俺、現実見るわ」
「いやいや!本当ですって!わたしそんな嘘ついてもメリットありませんし」
「すまんな、こんなところに来させちまって。謝っても謝りきれねぇ」
「面倒くさい男ですね!あなたは!機嫌いいときは張り切りまくって、落ち込むときは果てしなくそこまで落ち込むのやめてください!」
「なんとでも」
「とりあえずここを出る方法を考えましょう」
「脱獄すんのか?罪重ねるぞ」
「脱獄は最終手段ですって!そんな荒技は序盤では使いません!」
「使うは使うんだな」
そろそろ壁に向かって話しかけるスタイルは嫌になってきたヒビキはとりあえず硬い床に仰向けになって寝た。
六道輪廻………実在するかどうかもわからない考えにどこか納得する自分がいた。順番に転生するというルールがある事に疑問を感じ始める。
「もしルールを破ったら?」
独り言をポツリと呟く。
「なんのですか?」
そんな言葉を無視して頭に渦巻く無限の思考に浸り始めたその時、ヒビキは柔らかい光に包まれながらこの場を去った。
次回はもう少し長めにしたいと思います。お楽しみに