駅へ
勇者曰く、死者の霊魂は今夜、ネクロマンサーと呼ばれる者に運び出されるとのことだった。
「霊魂をこの街に停滞させるわけにはいかないからな。 ネクロマンサーはわら人形にタナカの霊魂を憑依させて、幽霊列車まで連れて行く」
妖精はその話を聞き、それならタナカの霊魂を憑依させたわら人形を奪ってしまえばいいのでは? と聞いた。
「馬鹿を言え。 ネクロマンサーの仕事を妨害したらムショ行きだぞ」
勇者は、わら人形を連れ戻すならあくまで幽霊列車に乗り込んだ後を狙え、と言った。
「……分かりました」
夜になる前に、妖精はタナカの住むアパートで、幽霊に対抗するための技の開発をしていた。
妖精の手のひらに、黒い球体が作られている。
「ゴーストタイプの相手に打撃は有効ではなさそうです。 このブラック☆ホール なら空間ごと幽霊を削り取れます」
しかしこの球体、一度作ってしまうと何かを飲み込まなけば消えない。
「これは、いらないですね」
タナカがいつも一緒に寝ている、ウサギのぬいぐるみを飲み込むと、球体は消滅した。
深夜、妖精はタナカの死体のあった場所から少し離れた地点で、ネクロマンサーが来るのを待った。
建物の間から、顔だけ出して様子を見ていると、黒いローブを着て、背中にわら人形を背負った男が現れた。
死体のあった地点で立ち止まると、わら人形を置き、何やら呪文を唱え始める。
「彷徨う霊魂よ、このわら人形に憑依せよ!」
しばらくすると、わら人形がムクリ、と起き上がった。
(す、すごい!)
ネクロマンサーとわら人形の後をつける。
辿り着いた先は、街の駅だ。
時刻は0時。
既に終電が通過した後のようで、ホームには泥酔した兵士や、魔法使いらしき者がちらほらいた。
「歩いて帰るのかよ…… こういう時移動魔法使えるやつはいいよな」
「あ、俺使えんだ。 お先!」
シューン、と片方の魔法使いは飛んでいなくなった。
「あ、あのやろっ」
そんな光景をよそに、妖精はネクロマンサーを追って改札の中に入っていった。




