幽霊列車
ドラゴンは目の前の妖精を一瞥した。
「虫けらめ。 通行の邪魔だ!」
妖精に竜の足が迫る。
(無駄です! 返り討ちにします)
妖精が握り拳を作り、振り抜こうとした瞬間、何かが割って入ってきた。
ドスン、と踏みつけられる。
「ぐうっ」
割って入ってきたのはタナカであった。
どうにか剣を地面に突き立て、そのスペースのおかげで潰されることはなかったが、体の半分の骨を砕かれ、重症である。
「な、何で割って入ったんですかっ!?」
「お、俺は…… 勇者…… じゃないけど、がはっ…… 男、だ…… 大切な人、は…… 絶対、まも……」
既に喋ることもままならず、もはや助かる見込みはない。
「そんな……」
これからパートナーとしてゲームクリアを目指そうとした矢先、こんなことになるとは。
妖精の中に怒りが芽生えた。
妖精は竜の足の裏に拳を見舞った。
すると、ドラゴンの体が舞い上がり、大気圏を突き抜け宇宙まで飛んで行った。
(……?)
「タナカ……」
タナカは既に死んでいた。
「こんなことになっちまうとは……」
腕と足を骨折した勇者が駆けつける。
「すっ、すまない…… パンドラの箱の中身がまさかドラゴンだなんて……」
店主が妖精に頭を下げる。
それでも、タナカが起き上がることはない。
「何で、私を助けたんですか……」
妖精は自分の力を隠したことを後悔した。
勿体ぶらず、すぐに倒しておくべきだった、と。
「ここはゲームの中です。 タナカを復活させる方法をご存知ありませんか?」
妖精が店主に向き直り、尋ねた。
「……幽霊列車。 死者は、それに乗って死者の国へと向かうと聞いたことがあります」
店主は、その幽霊列車からタナカを連れ戻すことが出来れば、命を助けることが出来るかも知れないと言った。
「やめておけ! お前も連れて行かれるぞ」
勇者が止める。
しかし、妖精に迷いは無かった。
「今は、プリンよりタナカの命を優先します」