勇者
店の客は、噛みつかれたことにより、ネズミへと変化していた。
その数およそ10。
「君は俺の後ろに隠れていろ!」
改めて剣を構え、ネズミに向き直る。
「この剣のサビになりたいやつから、前に出てこい!」
すると、周囲の5匹が同時に襲いかかってきた。
「……な!?」
ネズミに押し倒されたが、どうにか剣で牙を押さえ込む。
しかし、食いつかれるのは時間の問題であり、兵士は死を悟った。
「く、棚にしまっておいたプリン、食っときゃ良かったあああっ」
その時、妖精が動いた。
「あなたを助ける理由ができました」
妖精は地面を手のひらで叩き、あるものを宙に浮かす。
ネズミの本体である。
「チチッ!?」
「重量が軽ければ、その分高く浮き上がりますよね。 そして、恐らくあなたを倒せば、お客さんは元に戻るでしょう」
「ムダだっち!」
ネズミと妖精の間には15メートルの空間がある。
妖精にネズミの牙が迫っていた。
「拳が届かないのなら……」
妖精は、床に落ちているグラスの氷を掴むと、一気に握り込んだ。
ちょうどパチンコ玉程の大きさまで圧縮された氷を、指先でつまみ、それをデコピンの要領ではじき出す。
見事、ネズミの脳天に命中した。
「ギエエーーッ!」
「この技、パチンコ☆玉☆ と名付けましょう」
ネズミにされた人間は元に戻った。
「あ、あれ? 俺、確かハンバーグを食おうとして……」
みな訳が分からない、といった様子で席に戻って行った。
兵士は妖精の方を見やる。
「……まさか君が」
「助かりました、あなたがいなければ、やられてました」
兵士が言い切る前に、妖精が割って入る。
「あなたの魔法のおかげで、ネズミの親玉を倒すことができました。 さすが、勇者です」
「ゆ、勇者? 俺が?」
「その通り。 あなたは選ばれし勇者で、私は冒険のヒントを伝える妖精です」
兵士はにわかに信じがたい、といった様子だが、段々とテンションが上がっていった。
「知らなかったわ…… 俺にロトの血が流れてたのかよ」
氷を圧縮した理由➡殺傷能力を高めるため