記憶
妖精が魔法使いの男を連れてくると、足蹴にされていたわら人形にメモリーを使うように促した。
「分かった。 この画面を持っていてくれ」
男が手渡してきたのはスマホのような機器である。
杖を構え、呪文を唱え始めた。
「えー、この杖、種も仕掛けもございません。 しかし、あんな記憶やこんな記憶も読み取れます」
「手品じゃないんだから、早くやって下さい」
「……ちっ、ノリの悪いお嬢ちゃんだな。 メモリー!」
すると、機器の画面に映像が映し出された。
女の子が泣いている。
「え~ん、え~ん」
「馬鹿め、俺に逆らうからだ!」
恐らく、ガキ大将的存在だろう。
拳を振り回している。
女の子に暴力とは許せんですね、と妖精が思った時、
「やめれ~」
何やら情けない声がした。
そして、画面がガキ大将に近づく。
この声の主が見ているものが、画面に映し出されているらしかった。
「ぐあっ」
即座に画面が暗転し、次に地面が映された。
(よ、弱い……)
「タナカ君、平気?」
「こ、こんなの平気だ! お、俺は勇者だからな!」
「へん、お前が勇者なら、俺は魔王だ。 はっはっは」
ガキ大将は笑いながらその場を去って行った。
ここで画面が途切れたが、このわら人形がタナカであることが発覚した。
「……魔法使いさん。 このわら人形を連れ出したいので、さっき言ってた脱出呪文を使って下さい」
「分かった。 パーティーは3人まで組めるから、ギリギリ大丈夫だ。 俺の後ろに立ってくれ」
妖精がわら人形を抱え、魔法使いの後ろにつく。
「入り口へと導け、ルレミト!」
しかし、スカ、と杖から煙が出ただけである。
「……あれ?」




