魔法使い
幽霊をブラックホールに収めると、隠れていた1の数字が現れ、10の数字となった。
「最後尾の車両だったわけですか」
タナカを探し、どんどん前の車両へと進んでいくと、突然乗客に声をかけられた。
「ウェイターさん、水、ありませんか? うぷっ」
黒のローブを羽織った中年くらいの男である。
終電と間違えて乗り込んだらしい。
「こんな格好ですが、私はウェイターではありませんよ」
「……誰でも良いから、水持ってないか?」
男は相当酔っぱらっているらしかったが、妖精には構っている暇は無かった。
無視して進もうとすると、男は気になることを言った。
「こんな列車に何の用があって乗り込んで来たのか知らんが、水をくれたら協力してやるよ。 俺は魔法使いだからな」
本当にこんな男が魔法使いなのか?
妖精は一応、聞いてみた。
「それなら、このわら人形の中からタナカを探し当てることができますか?」
「……メモリーの魔法を使えばいい。 相手の記憶を読み取ることが出来る」
男が立ち上がると、懐から短い杖を取り出した。
「脱出魔法を使うための魔力も残しとかなければならん。 使えるのは一発だけだな」
「……なら、ここで待っていて下さい」
妖精がトイレの蛇口まで行き、手に水を集めて帰ろうとした時であった。
ゲシゲシとわら人形が足蹴にされている。
(イジメですかね……?)
こんな時、タナカなら助けに入るかも知れない。
「……そうだ、少し待ってみますか!」
しかし、助けに入るわら人形はおらず、足蹴にしていたわら人形が去ると、やられていたわら人形に別なわら人形が心配そうに駆け寄った。
「……まさか」
助けに入って逆にやられたのか?
妖精はそう思った。




