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妖精の腕力賢者  作者: oga
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チュートリアル

紀野 真宵様の作品です。


小説の妖精である《まっちー》は困っていた。


 事の発端はネット通販であった。

まっちーがぐうたらとネット通販サイトを眺めていると、とあるVRゲームを見つけた。そのゲームの初回限定特典に『激宇摩げきうまてい』の高級プリンがなぜか付いていたので衝動買いしてしまった。

ちなみに、彼女はプリンに目が無い。


「なぜサイコパス野郎の自己満足に付き合わなければならんのですか。うぁ~、背が高すぎて気持ち悪いです」


 ほっぺたを膨らませるまっちー。

VRのキャラクター補正で、身長が30センチから90センチに伸びていた。

長い金髪に碧眼。青い花を連想させるドレスを着ていて、いわゆるかわいい系の妖精の彼女は、プリンを買ってついで(・・・)に本編のゲームをプレイしようとたくらんでいたが、実はソレは罠だったのだ。

何故なら、それは《デスゲーム》であったからだ。


 小さな妖精はため息を吐いた。


「まさか、ゲームに閉じ込められるとは……! プリンの消費期限は3日しかないのに!!」


 こうしてまっちーはデスゲームに命を賭けることにしたのだ。皆の命のためではない。全ては愛するモノの消費期限(タイムリミット)のために……。


◇◇◇


『ヒャハハハ。よく来やがったのゼ!』


 悪魔を連想させるような薄気味悪い声が降ってきた。

その声の主はコウモリに似たモンスターで、ずんぐりで毛むくじゃら、ギョロリと光る目玉の生物。そのモンスターが、天井に吊られながら嘲笑っていた。


「うわぁ……」

「恐れ多くて声を失ったか?」

「登場するタイミングが気になって……」

「ソッチ!?」

「あと最近のキャラ立ちだと『ゼ』は弱いから、他で攻めたほうがよいですよ」

「そんなことないゼ! この翼! そして牙! オイラは悪魔の化身だぞ!! キャラは立ってるのゼ」

「えっ。う~ん。まあ、あなたがそう思っているなら良いですよ」

「ぜんぜん納得して無さそうだゼ!? まあ、良い。さっそくだが、デスゲームのルール説明をさせてもらうゼ」


 コウモリの説明によると、VRゲームとは仮想現実世界で楽しむゲームとのことだ。

まっちーは遊べれば何でもいいという楽観的な性格だったので、どうしてこんな技術が出来ているのか分からないが、要するに走馬灯の凄いバージョンの応用らしい。

体感時間の1日が現実世界の3時間に相当する。

つまり、体感時間でのプリンの命(タイムリミット)は24日ということになる。

 このコウモリはチュートリアルのキャラのようだった。


「おまえの職業は《賢者》だゼ。ふむ、よく本を読む人間がコレになるらしいな。さて、おまえのステータスはこれだ」



――――――

ステータス

――――――

名前:まっちー

レベル:1

職業:賢者



HP 17

MP 45

パワー(攻撃) 4

ディフェンス(防御) 9

センス(魔攻) 15

フィジカル(魔防) 10

――――――

装備

武器:素手

防具:なし

アクセサリ:なし

――――――



「うわっ。わたし、弱すぎませんか?」

「ケケッ! ステータスはオイラが決めるんだ。賢者の最低値を選んでやったんだ。ザマァ見ろだゼ! まあ、多少の補正をくれてやる。このゲームの製作者の粋な遊び心ってやつだゼ。オイラは気に食わないが、ありがたく受け取っていけよ」


 妖精の前に、ドカンと大きな塊が落ちてきた。騒がしい電子音を鳴らすそれは、スロットであった。


「こ、これは……!」


 妖精はいきなり現れた機械に驚く。

スロットには『パワー』『ディフェンス』『センス』『フィジカル』の絵柄が描かれていた。


「1回だけやっていいんだゼ。柄の能力が上がるんだ。横か、ナナメがそろえば、ラッキーチャンス! 上がる能力が2倍になってまた周すことができるんだゼ。つまり、当たり続ければ、4倍、8倍と能力が上がるんだぜ! ただし、外れたら補正値は0になるんだぜ」


 妖精はスロットと対面した。

目の前でリールが回転する。絵柄がぐるぐる周って、素人目には何も映らない。だが、その様子を彼女はじっと見ていた。


「どうしたんだゼ? 早く押せよ」

「うるさいですね。黙っていてください」

「ケケケッ、早く押してラクになっちまえばいいのにな」


 騒がしい電子音。

妖精はじっとこらえて、真剣にスロットを見つめ続けた。


「……てやっ!」


 1つ目のリールが止まる。『パワー』の絵柄が出た。


「あっひゃっひゃ! 賢者の癖に、残念なんだゼ!」

「いいえ。コレが正解です。……てやっ!」


 2つ目のリールが止まる。出てきた絵柄は『パワー』だった。


「なんだって!? まさか、おまえ……!」

「ギャンブルなら、当たることもありますよ」


 妖精らしいふわりとした笑顔をするまっちーに、コウモリは面白く無さそうな顔をした。


「フッ、フン! ただのマグレだ! いい加減にしろ!」

「とぅ!」


 出てきた絵柄は再び『パワー』だった。ピロピロと輝くスロットが『当たり』を告げる。

コウモリは一瞬の出来事に唖然としたが、すぐに赫怒を飛ばした。


「当たったからってなんだよ! ほらっ。ダブルチャンスだぞ。どうするんだ? さあ、ここで降りるんだろ? かわいそうになァ、賢者なのにパワーの補正をもらうなんてさ」

「そうですね。では、ダブルチャンスをしましょう」


 点滅しているダブルチャンスのボタンを、妖精は躊躇なく押した。


「やっちまったゼ!? あーあ、後戻りはできないゼ!」


 良い気味だと笑うコウモリ。しかし、妖精は気にしなかった。


「ていっ、てやっ、えいっ!」


 テンポ良くスロットを押す妖精。

すると、再びスロットがピロピロと電子音を鳴らして輝いた。当たったのは『パワー/パワー/パワー』の絵柄である。


「え……。また、当たって?」

「はいです☆ よし、ダブルチャンスに挑戦っと」

「お、おう。へっ、しょせんはヘッポコ賢者まほうつかいにパワーなんだ。殴られたって大したことない、それに……」


 コウモリが全てを言い終わる前に、再びスロットが輝きだした。

ハッとスロットを見返したコウモリ。当たったのは同じく『パワー/パワー/パワー』の絵柄である。


「へへ。できちゃいました☆」


 満面の笑みを咲かせる妖精に、コウモリは凍りついた。


「おまえ、まさか……」

「あのですねぇ。アンタの言うたかが妖精がどうやってお金を稼ぐのか。想像したことがありますか?」


 その言葉の意味を察してコウモリは戦慄せんりつした。

その答えは、そもそもどうして妖精がネット通販できたのだろうかという問題に立ち返ることになる。

つまりは、スロットで稼いでいたのだ。


 スロットには4つの打ち方がある。『色押し』『でっぱり押し』『切れ目押し』『目押し』だ。

『色押し』は目立つ絵柄の色を狙う技術。

『でっぱり押し』は、大きいボーナスの絵柄を狙う技術。

『切れ目押し』は、スロットのロールに貼ってあるシールの切れ目を狙う技術。

要するに、古いスロットなどで見かける劣化したシールの切れ目を狙う技術のことだ。

 この3つは慣れればできるが、妖精は違う。

彼女が行ったのは、最高難度の『目押し』だ。


「これ、押したら誤差も無くそのタイミングで止まりますね。技術介入のみのスロットだから、直視で押せる人には神ゲーですよ☆」

「そんな、馬鹿な……!」


 目押しは、回転しているリールの絵柄を認識してボタンを押すテクニック。彼女は玄人くろうとだったのだ。

彼女は、スイカの『種』まで余裕で直視できてしまうほどの目押しの実力者である。


「このスロットを作った人は、自分が出来ないから他人も出来ないと思い込んでするでしょうか?」

「うるさい、これならどうだ!!」


 コウモリがスロットの前に割り込んで、絵柄を見えなくしてしまった。


「面倒くさいですねぇ」


 妖精は形の良い眉をひそめながら、絵柄を見ずにボタンを押した。

コウモリの背後でピカピカと『当たり』を知らせる輝きを放つ。コウモリは唖然とした。


「な、なんで……!?」

「今度は『タイミング押し』ですよ☆」


 スロットのリールは、1秒間に79回転以下と決められている。メーカーにより多少の違いはあるが、なるべく早くまわして惑わしたいのだから、その最高速度がテンプレートとなっているわけである。

逆に、テンプレートをそのまま突っ込んだ簡易なスロットなら、妖精の思うつぼだ。

 スロット好きでない人間が作ったものなのだから、中身の設定など言うまでもないだろう。


「それどころか、ガバだったりしますね。コイツは」


スロットのリールの絵柄のコマ数も21コマ以下と決められている。しかし、このガバガバなスロットの絵柄は、『パワー』『ディフェンス』『センス』『フィジカル』の4種類が3枚ずつで合計が12コマと柄が少ないのだ。


「要するに、こんなのオモチャ以下ですよ」

「そ、そんな……!!」


コウモリの目の前で、再びスロットが光りだす。コウモリは絶望のあまりにへたり込んだ。

当たった柄はまたも『パワー/パワー/パワー』。スロットの『7』が好きだった彼女は、パワーの『ワ』が7に見えて押しやすかった。そして、おあつらえ向きに『パワー』の柄は『7』と同じく『赤い』のだ。それを『7』を狙い続ける彼女が見逃すはずは無い。


「ふぅ、飽きましたからこれくらいにしましょうか。ごちそうさまでした☆」

「うぅ……ああ…………!?」



――――――

ステータス

――――――

名前:まっちー

レベル:1

職業:賢者


HP 17

MP 45

パワー(攻撃) 824921867

ディフェンス(防御) 9

センス(魔攻) 15

フィジカル(魔防) 10

――――――

装備

武器:素手

防具:なし

アクセサリ:なし

――――――


 こうして、最強の腕力賢者が生まれたのだった。


「ちゅっ、チュートリアルをはじめるんだゼ。まずは、この部屋まで歩いて……」


 妖精が『グワシャ!』とコウモリの頭を掴んだ。


「ひィッ!? チュートリアルをぉぉぉ!?」

「よく考えたら、する必要ありますか?」

「痛いィィ! 頭がメキメキしちゃう!! 中身が出ちゃうぅぅぅ!!」


 簡単に掴んだだけである。


「ひっ左のモンスター場を! アッチの部屋のモンスターを、ぜんぶ倒せば終了だゼ」

「もう一度言いますね? する必要はありますか?」


 ハンパない力がコウモリの頭蓋ずがいに訴えかける。この雑魚を倒すだけのチュートリアルに意味など無い、と。


「ナイ、デスよっ! チュートリアル終了ですオメデトー! マシマロ村へワープだゼ!」



◇◇◇



 ここは、のん気なニワトリの声が響く田舎の村、《マシマロ村》。

木製の小屋が立ち並び、モンスターが入ってこないよう壁で村を囲っている。

一見、普通の村ではあるが、この大陸の気候は変わっており、年中マシュマロが空から降ってくるのだ。

そのおかげで、雪が積もったような白い土地になっており、マシュマロの上を、ぽんぽんと跳ねて住人は暮らしている。

 そんなのどかな村で、妖精はお菓子を食べていた。


「う、うまい! なんですかこの《焼きマシュマロ》って!! 焼くことにより、甘い風味を引き立てる!! これは、パネェですよ。完璧です☆」


 妖精は、マシュマロを名物にしたことにいたく感動し、スウィーツに関してはセンスがある! と、このゲームの製作者を再評価していた。

 そんな中、


「モンスターが来たぞ! 向かい討てぇぇ!!」

『グォォ――!!』


 普段はのどかな風景のはずなのだが、今日に限って村は悪夢とし化していた。

モンスターの雄たけびに、村人達の悲鳴。暴れまわっているモンスターは《デーカィ・オーガ》だ。


 身長3メートルで、自身の背丈ほどもある棍棒を持っている。鮮血を連想させる真っ赤な皮膚は、ゴツゴツしており、弓ではなかなか貫けない。《デーカィ・オーガ》は、その怪力で次々と村の家を壊した。


 だが、妖精は気にしない。お菓子のためなら、たとえ火の中、水の中である。つまり、火だろうがなんだろうがお菓子のためなら気にしないということである。


「きゃー!!」


村娘が《デーカィ・オーガ》から必死に逃げようとして、茶屋にいた妖精のテーブルに体をぶつけてしまった。妖精が食べていた《焼きマシュマロ》が宙を舞い、ベチャリと地に落ちる。


「きゃー!!」


 今度は妖精が悲鳴を上げた。


「ハッ!? お願いします、冒険者さん!! あの《デーカィ・オーガ》を倒してください」

「うぅ……あぁ……」

「あの、どうなされましたか?」


 そのとき、妖精は初めて村娘の存在に気付いた。あまりの喪失感に、瞳がうつろになっていた。


「こ、これがプリンだったら重罪ですよ……!!」

「それどころじゃないですよ!! 村が襲われているんですよ!!」

「それどころって、あのですねぇ。プリンと人の命、どっちが大切だと思っていますか!?」


 マジ顔で言う妖精まっちー。もちろん、彼女的にはプリンの方が大事だ。


「えっ、ええ……?」


 何を言っているのか意味が分からず、戸惑っている村娘。すると妖精は何かを思い出して、ふぅと長いため息を吐いた。


「時間が無いのはあなただけではないのですよ」


 どこか懐かしむように遠い目をする妖精。もちろん、愛しのプリンのことである。


「え……? えぇ?」

「マシュマロ、美味しかったですよ。でも、愛おしい存在がわたしの帰りを待っていたのです。ここは、涙を呑んでさらばなのです」

「ちょっと! 助けてくださいよ!」


 その瞬間である。2人は大きな影に覆われた。

村娘は振り返る。《デーカィ・オーガ》が棍棒を振り上げていた。


「きゃ――!!」


絶体絶命の危機に、村娘は自らの死を悟った。



「怖がることはありませんよ☆ もうってますから」


そう言って、妖精はすでに(・・・)拳の突きの挙動を収めていた。


『ググブゥガギャァぁぁ――!?』


 メキメキと《デーカィ・オーガ》の全身の骨が鳴り、その巨体が空中で回転する。

ギュラギュラと地面を削って吹き飛ぶと、その勢いはとどまることを知らず、山の端っこにぶつかってボン、と鳴った。


 村娘も、見守っていた村人達も突然の出来事に言葉を失っていた。


「ひぇ、ええぇぇぇぇ――!? どうなってるの!? ええぇぇ――!?」


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