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スキルと日記とオムライス

『…で、だいたい状況は理解したってことでオゥケイ?』


「最高に納得いかないけど、まぁ把握はしたわ。」


 まず”転生した”だなんていう大前提からして納得いってないもの。でも目の前にあるものを信じればそうとしか言えなくなる。さすがにこんな、某探偵少年もお世話になってる黒い組織的な何かの力でも借りなければ成しえないような壮大なドッキリなんて誰も仕掛けてこないだろう。


『じゃあ次はスキルやらなにやらの説明ですかね。えーと、あ、そういやあんたの名前は。』


「あ、そういえば名乗ってなかったわね。水緒よ。前世は花のJKだったわ。」


『自分で花のとか言っちゃうあたりだいぶ枯れてたんだなってことはお察ししますね。』


「あんた友達いたの…?」


 初対面とは思えないスピードで失礼な言葉を吹っかけてきやがるぞコンチクショー。

それなりに充実してたわ。本読んだりマンガ読んだり絵描いたり小説書いたり推しの舞台見に行ったりありえないくらいに充実してたと言えるわ。うん。決して普通のキラキラしたJK像と180度差があるなんてこと、ないのだ。


『俺の広い交友関係はさておき』


「まったくさておいてないじゃない。」


『スキルの説明です。水緒さんは前世ではこういった転生系の小説などは』


「一度どっぷりはまったことがあるわ。」


 そう、不本意なことにこの状況は私にも少なからず憧れを覚えたことのある状況なのだ。余計なおまけがついてきて赤の他人と一緒ではあるけれど。


『じゃあ説明しやすいですね。俺たち二人は転生時に別々のスキルを授けられています。誰によって授けられたのか不明ですけれどね。』


「そもそも誰によって何のために転生させられたのかわからないし。」


 異世界転生なのか異世界トリップなのかわからないし。なんだこの曖昧加減。


『まず、俺に授けられたスキルは二つありました。”鑑定”と”言語翻訳”です。』


「言語翻訳はなんとなくわかるわ。こっちの言葉が日本語に見えるのよね?」


『そうですね。こっちの文字は象形文字のような見た目をしていますがそれらがすべて日本語に訳されて見えます。しかし、こちらには漢字のような概念がないのですべてひらがなに見えます。』


「それは…読みにくそうね。」


『ええ、とても。』


 つまりはこの先もし国家機密の文書とかもらうことがあってもひらがなででかでかと「ひみつ・だれもみちゃいけません」とか書いてあるってことよね。何それ最高にかっこ悪い。


『もう一つ、鑑定ですが、こちらもだいぶ便利です。』


「具合的には何を鑑定できるの?」


 相手のステータスとか見れるんだったら最高に都合がいいじゃない。




『視界に入れた人間の両親が今何をしているかが見えます。』




「趣味悪ッ!」


『冗談です』


「冗談じゃなかったら困るわよそりゃもう盛大に。」


『あ、じゃあ冗談じゃないです。』


「あっていってる時点で手遅れなのよ!…で、本当は何が見えるの?」


『…視界に入れた人間のステータスです。』


 しぶしぶといった様子で大和が口にした情報はこの世界を生き抜くうえでとても役立ちそうなものだった。


「じゃあ私のスキルも見えてるの?」


『ええ。ミア=ナイト=シェリルの魂が持つスキルは”神の寵愛”。水緒さんが持つスキルは”合成”ですね。』


「…ちょっと待った。この…ミアちゃん?の魂は消滅してないの?というかそもそもこの転生の仕組み自体よくわかってないんだけど、ふつうは魂の消滅した肉体に転生しない?」


『……そこらへんはその、少し複雑というか、彼女の持つスキルが関係しているといいますか。そのことは後で説明しますのでとりあえず水緒さんのスキルについて説明しますね。』


「……わかったわ、続けて。」


 そもそもなんで大和はこんなに状況を理解しているんだろう。やっぱりそこらへんは鑑定のスキルが関係しているんだろうか。決して私の理解力が劣っているとかではないのだ。


『水緒さんのスキルである”合成”は…その名の通りですね。材料さえそろっていれば作り方がわからなくてもなんでも作り出せるようです。あとは…水緒さん、なんか食べたいものあります?』


「何よ唐突に…。そうね、オムライスとかかしら。」


 そう答え、脳裏にふわふわ卵のオムライスを想像すると、目の前に半透明のスクロール画面が表示される。



【ふわふわ卵のオムライス:

鶏もも肉 1/2枚(約100g)

玉ねぎ(小) 1/2個

マッシュルーム(生) 4個

グリーンピース(冷凍) 大さじ1

冷やご飯 茶碗2杯分(約300g)

卵(Mサイズ) 4個

ブロッコリー 1/4株

パセリのみじん切り 適宜

サラダ油

トマトケチャップ

バター

こしょう】



「なにこれ…レシピ?」


『ああ、水緒さんには見てるんですね。俺には何も見えてないんですけど。合成の能力一覧に材料一覧の表示って項目があったので、どういうものなんだろうって思いまして。』


「なにそれすごい便利じゃない?大丈夫?」


『何の心配ですか。便利であることに越したことはありませんよ。』


「いや……こういうのってたいていチート能力で悪目立ちして敵味方問わず騒がしく暮らしてくことになるじゃない?私できれば平穏に過ごしていきたいのだけれど。」


『え、楽しいじゃないですかチート。チートしましょうよ。』


「いやよ!平穏で優雅なライフを送るのよ!」


『……まあどうせこういうのって主人公が平穏を望んでも周りがそうさせてくれないんですからあきらめましょう?』


「私はそのテンプレをぶち壊す…!」


 そんな無双してもし元の世界に帰れることがあったら、この子がかわいそうだし。さっきの話を聞く限りまだ魂が消滅してないっぽいからまだ現世に帰れる望みはあるわよね?


「そういえば、さっき言ってたその、魂が消滅してないって具体的にどういうことなの?」


『それに関しては…そこにある日記をよめばわかります。言語に関しては俺の翻訳スキルが発動されてるので読めると思います。』


 すこし影のある表情で大和が指さしたのはかわいらしい木彫りの装飾が施された白樺の机。

ふわふわなお布団をのけて、ベットから降りる。このベッド、子供用だからそんなに高さはないのね。面積はすごいけど。

白樺の机の上にはぽつんと一冊の本が置かれていた。薄い桃色のしっかりとした表紙。つたない字で「にっき」と書かれている。

この世界、紙の技術はそれなりに進歩しているようで、本の中身は私がよく目にしていた紙とほぼ変わりのない材質だった。


ぺら、と一枚めくると、つたなさの割には小さい字が並んでいた。



≪3がつ4にち つちのひ


きょうからにっきをつけてはどうだとおとうさまにいわれた。もうわたくしのいきていられるじかんはすくないと、そういうことなのだろうな。


せめてわたくしがここでいきていたあかしがのこればいいな、とおもい、にっきをつけることにする。


こういうのは、はじめてだ。なにをかけばいいのだろう。


まずは、わたくしのことだろうか。


わたくしはみあ。みあ=ないと=しぇりる。


おうぞくの、すえむすめ。でもびょうき。


いつしぬのかわからない、でも「もうながくはない」ことはかくじつらしい。


だから、おとうさまもおかあさまもひどくやさしい。おにいさまたちも、わたくしにやさしくしてくれる。


うれしいけれど、すこし、つらい。≫



「…あなた、これ、読んだ?」


『……ええ。』


 つたない字で懸命につづられた思いは私の心をゆさぶるのには十分すぎた。

子供とは思えないほどに達観していて、それがまたつらかった。

次のページでは、「おにいさまたちとあそんだ。」という一行に、押し花にされた四つ葉が挟まっていた。

その次のページでは、「おとうさまとしょくじのじかんいがいでひさしぶりにおはなしした。おとうさまは、ひだまりみたいなひとだ。ねがわくば、わたくしもそうなりたかった。」という言葉とおそらくはそのお父様なのだろう、優しそうな男性と太陽の絵が描かれていた。


まっすぐな気持ちがそこにはつづられていた。


しばらく、日常報告のような短い文章が続いたが、半分を過ぎたあたりでまた最初のページのようにたくさんの文章が出てきた。


でもその文字は、最初のころと比べると確実に歪んでいた。


≪5がつ8にち つきのひ


からだがうまくうごかなくなってしまった。まりょくが「ほうわ」しているかららしい。


わたくしはかみにあいされすぎてしまったのだって。まったく、はためいわくなかみさまもいたものだ。


わたくしのたましいはそのうちかみのあいとよばれるまりょくにのみこまれてしまう、らしい。


かみのあいにたえられるほどじょうぶなたましいではなかったのか、かみのあいがおもすぎたのかはわからない。


きえるのはこわくないけれど。おとうさまたちがしんぱいだわ。


わたくしがきえたら、なきすぎて、うみがあたらしくできてしまいそうだ。


わたくし、かみにあいされすぎてしまったけれど、かぞくにもおなじくらい、いや、それいじょうにあいしてもらったようだ。


わたくしは、しあわせものだ。≫


 次のページは白紙だった。だけど、文字の代わりに何か濡れたような小さな染みができていた。


「……この子、相当タフね。」


『…そうですね。子供の割には、達観しすぎなところもあると思いますけど。』


 私は日記をぱたりと閉じて机の、元あった位置に戻す。


「それで、あなたがさっき言ってた魂が残ってるっていうのは?この子の書いてあることを見る限り消滅したように思えるんだけど。」




『……それはこの子が本当に…本物の”神の寵愛”を受けてしまっていたからなんです。』


 大和が静かにそうつぶやいたとき、部屋の扉が開いた。

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