知らない天井はお約束
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
「とか小ネタぶっ飛ばしてる場合じゃねぇよォう!!!!マジでどこやねんここォ!!!!!!!!」
『あ、追い出された。』
ふっかふかでふっわふわなオフトゥンをはねのけて飛び起きる。おっはようございますいい朝だぜ!!
そんな爽やかな朝に似つかわしくない状況がまさに今なんだけどね!
まずさっき私の目に飛び込んできたのは見間違いでなければ所謂「天蓋」とかいうもの。
なんで一般市民であるわたしの布団に突然そんなものがついたんだ。なんだ、母親の気まぐれか?
「あらぁテストの点数よかったのね、じゃあご褒美に天蓋つけてあげましょうね」ってことか!畜生!そんなわけあるか!
しかもよく見てみると変わってるのは布団だけじゃない。布団ってかベッドだし。
まず変更点1、ベッド。これはさっきから言ってる通り天蓋付きのふわふわふかふかベッドになってる。確かに昨日寝たときは薄い敷布団だったのに。
変更点その2、部屋。
……規模が大きすぎた。落ち着こう。すーはーすーはーひっひっふー。
改めて変更点その2、…………部屋。
いや、だってそれ以外に形容しようがなかった。だってもうこれ私の部屋じゃないもん。まるごとまるっと違う人の部屋に移動させられたとしか思えない。
変更点その3、服。なんかフリルがふりっふりのフリフリ服になってた。語彙力が少ないのは知ってるからそっとしといて。
いつもは中学の時のジャージ(高校生になっても成長期が来なかったから余裕で着れる)をパジャマにしてるのに、今着てるのは白い襟も袖もボタンのところもふりっふりな白いシャツに同じような白いズボン。たぶん相当いい生地。
そして変更点その4、体型。
体型。
「っっふぁああああああああああああああああああああ!?」
『うわっうるさ。』
まってくれ。ちょっとまってくれ。おかしい。いくら私に成長期が来なかったからと言ってここまで成長していなかったわけじゃない。胸だってCカップぐらいあった。そこそこあった。日本人の中ではそこそこあったのに!!!!
ぺったんだ。驚きの垂直加減だ。ぺったんこだ。ぺったんぺったんだ。まな板だ。まごうことなきぺったんこだ。
いや、それだけじゃない。胸が縮んだだけじゃない。手も小さい。布団から出てる足も小さい。これは所謂「幼児」というやつだ。
そう。幼児。私が。
『あの』
「おかしくない?それおかしくない?おかしすぎない?」
おもえば声も高い気がする。叫んでばっかだったからかと思ったけど普通にいつもより断然高いや。
なんでこんなことに。
状況を整理しよう。おちつけ、実はそれほど大変な状況ではないのかもしれない。
・部屋が改装されているもしくは全く違うところに移動させられている
・なんか幼児になってる
・なんか着替えさせられてる
まとめた分よりやばくなった気がする。
『あの、これ見えないし聞こえない系ピーポー?まじで?詰みじゃん?寝よ。』
「ふぉおああああああああああああああ!?」
『え、このタイミングで気づく?もっと前にありましたよね。』
「誰やねんおまああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
なんか目の前に男が浮いてた。ふっつうに。この部屋の中で一番やばかったからか無意識にスルーしてた。
『あの俺、あんたが目覚める前にそのからだに入ってた系ピーポーなんですけど、あんたが目覚めてシャウトしたと同時に追い出されたんですよ。どういうことなんですかね。』
「え?そんなん私が聞きたい…。」
というかそもそも目覚めたら知らない部屋にいて幼児になってて服も変わってて目の前に男が浮いてて話しかけてくるってなに、何したらそんな罰受ける羽目になるの???
『俺が調べたかぎり、そのあんたが今入ってる幼女の体はミア=ナイト=シェリル。この国…ディンエバー王国の王族。』
「ちょい待って、まずあんた誰。で幼女の体に入ってるってどういうこと?あとディン…ネバー?エバー?王国って何、どういうこと。ジャパンは?愛しの祖国は?」
『オウケイ落ち着いてほしい。こういう時はラマーズ呼吸法ですよ。』
「ひっひっふー、ひっひっふー……待って!幼女がラマーズ呼吸法をすると…」
『すると?』
「R指定をしなければいけなくなるかもしれないわ!」
『待ってくれ!”幼女””ラマーズ呼吸法”という二つのワードだけであんたは何を想像したんですか!』
「……人が取り乱してるのを見たら落ち着いたわ。説明して頂戴。」
『最低ですねあんた。まぁいいや。えーと、俺のことから説明すればいいんでしたっけ?」
「とりあえず、そうね。」
改めて、男のほうへ向き直る。黒髪で純日本人だとうかがえる顔立ちだ。そこそこイケメン。
服装は…白いプルオブパーカーに七分ジーンズ、スニーカー。うん、別に変なところはないわね。
……浮いていることを除けば。
『えー、俺は大和って言います。九条大和。今日目が覚めるまでは男子高校生やってました。で、今はよくわかんないけど浮いてます。』
「あなたにも浮いてる原因はわからないの?」
『ええ、推測でしか。』
「推測?なにかわかっていることがあるの?」
『いや、本当に推測でしかないんですけど。たぶん今の俺、精神体だけの存在なんじゃないかなと。」
沈黙、数十秒。
『……………サーセン』
「なによそのバカを見る目!!!!私まだ状況理解できてないんだから仕方がないじゃない!」
そんな「ああ、この人は理解力がないのか」みたいな蔑んだ目でみつめなくてもいいじゃない!
『わかりやすく端折らずに説明しますと、』
「初めからそうしなさいよ」
『俺たちは今、「異世界転生」という状況に陥っています。』
「……異世界に?転生?」
『そうです。現世で死ぬかなんかしてもしなくても起こりうる、理不尽極まりないやつですねこれは。だってあんた、死んだ記憶ないでしょう?』
「う、うん。ふつうに昨日は布団に入って寝たわ。」
『だからこれは、何が原因でもなんでもなく、偶然か神とかいうやつの故意で転生させられたパターンであると仮定します。ここまではいいですね?』
「納得するしないをのぞけば。」
『納得はたぶん誰でもできないのでいいです。…で、俺たちは転生するときに「精神体」だけ飛ばされた。言っている意味が分かりますか?』
「体はなく、こころだけ…ってこと?」
『そうです、だから現にあんたはその幼女の体を借りてる。で、ここで問題なのが「俺もその幼女の体に転生してた」ってところなんです。』
「…つまり、私とあなた、二人がこの子の体に転生しちゃったけど、一つの体には一人の精神しか入ることができない。だからあなたは私が目覚めるとともに体から追い出されて空中に放り出されたってこと?」
『だいたいそんなかんじです。』
わけがわからないよ。