おまけな話
日常。
没予定だったものを書き直してみました。
「きょんくん。これ、りっちゃんのとこに運んで」
「その呼び方やめろって言ってるだろ」
いちごミルクを受け取りながら怒るが、店長は楽しそうに笑うだけだ。言っても無駄だとわかってはいるが、どうせどうにもならないのだから言った方がスッキリする。そう、思い込むことにした。黙ってたら胃に穴が開くわ。
店の奥に座る女子高生、名前は杏梨といったか。今日はノートを開いて勉強をしているようだ。
近づいて一声かけると、ぱっと顔をあげ嬉しそうに微笑む。
「きょんくんありがとう!」
「あだな定着すんの早すぎだろ」
うんざりとした態度で言えば、杏梨は口を尖らせて不満そうな顔をする。
「さっくんは良くて私はダメなの?」
なんだその返しは……。
「変な言い回しするな。誰があいつに許した? お前の耳は飾りなのか?」
あきれも含めて、広がろうとしている変なあだなにイラついて、きつい言葉が続いてでた。
一瞬きょとん、とした顔を見せると何故か楽しそうな顔をした杏梨に嫌な予感がした。と、思ったときには遅かった。
「さっくーん! きょんくんが酷いこと言うよー」
「ちょっと、お客様にたいしてその態度はよくないよ。減給だよ減給」
会話は全部聞いていたであろう店長が口を尖らせながら、困った顔とは裏腹に軽い口調で返してくる。
皿割っても、飲み物だめにしても減給などと言わないのに、なぜこんなことで減給されなければならないのか。
「うるせー! もとはといえばお前のせいだろ!」
「うるさいのは君だよ」
店長と杏梨が「もー、仕方ないなぁ」などとほざくのを聞きながら、めんどくせえなって心のなかでツッこんだ。
誰のせいだと思ってるんだ、コイツら。
「きょんくん勉強教えてよ」
「今の今でそれを俺に頼むのか?」
「うん!」
力一杯肯定されて、何も言えなくなる。
バイト辞めようかな。そんな思いもちらつき始めたとある日の午後。
結局教えることになった。
「お前……マジか」
「だから教えてってお願いしたんだよ~」
「机に突っ伏してる暇があったら教科書読め。公式を覚えろ。問題集も開け」
「すぱるた……もっとやさしくして……」
「現実を見ろ」
「やーだー」
「二人とももう少し静にね」
「はーい」
「なんで俺まで……」