休憩
「あなたっていつもそう! たまには美味しいの一言でも言ったらどうなの?!」
なんか始まった……。
ことの始まりは休憩の始まった5分くらい前だと思う。
いつものように出されたものを隅でもくもくと食べていた。途中、なんか店長の視線を感じると思いつつもそのままにしていたら、唐突に店長の小芝居が始まった。
その発想にも、展開にもついていけず、珍獣を見る気持ちってこんなんだろうなって思いながら見てた。
「ちょっと、無視はよくないよ。君からツッコミを無くしたら何が残るのさ」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「面白い生き物」
当然でしょ? みたいなノリで言ってくる。コイツ、ほんとこういうとこは本気で腹立つ。
珍獣をみているつもりが、こちらも珍獣のように見られていたとは……それもそれでムカツクが。
「で、どうなの?」
呆れた目で見てたら、真面目な顔で迫ってくる。
「何が」
「か、ん、そ、う」
余計なことばっか考えてたら本題を忘れた。
言葉をわざわざ区切って再度、料理の感想を求められる。
逃げられないやつか。そう思って渋々伝える。
「……おいしい、けど?」
「けど?」
あ、これめんどくさいやつだ。
余計なこというと徹底追求されるなこれ。
俺の気持ちはお構いなしに店長はさあ、答えろと圧力をかけてくる。
「おいしい」
「どこがどんな風に?」
ほんとにめんどくさいやつだった。
今俺なに食ってたっけ?
すぐそこにあるが、店長から顔を背けるのも癪なので、とりあえず考えるふりでもしとくか。めんどくさい。
「めんどくさいって顔をするんじゃない」
「……どこがどんな風にってなんだよ。うまいからおいしいって言ってるだろ?」
だんだんイライラしてきて、そんな言葉が口を出た。
信じられないって顔をした直後、店長からわりと本気なチョップを頭にくらった。
「ってぇ~……何するんだ!」
「チョップを」
「そういうことじゃねーよ!」
再びチョップを繰り出そうとする店長を言葉の勢いで制し、痛む頭を押さえる。
店長は大きくため息を吐く。
「君はもう少し興味を持つべきだと思うなぁ」
「興味?」
「ダージリンとアールグレイ。どっちが好き?」
紅茶の違いはわかるし飲める。だが改めて、どちらが好きかと問われると、どちらがどちらか、わからない。
茶は薄い方が好きだけど。
なんのための質問なのかも全くもって理解できない。
「俺多分、君より君のこと知ってると思うなぁ」
「なんだそれ」
チリンチリン。
客の知らせを告げる鈴の音に、店長は即座に反応して俺から目をそらして「いらっしゃいませ」と、客の方に向かっていく。
「君が好きなのはダージリンの方だよ」
君は食べてからでいいからね、そう言い残して店長は接客に戻っていった。
なんなんだ……そう思いながら食べ途中だった料理を見る。
今日は野菜を微塵切りにしてたくさんのせたピザトーストにオニオンスープだった。それから、いつもいれてもらってる紅茶。
どこが、どんな風に?
食べながら考えるが、頭にはてなが浮かぶくらい、しっくりくる表現は見当たらなかった。