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アンダンテ  作者: くるみもち
2/10

アルバイト

 自分でもよくわからないが、俺は今なりゆきで喫茶店でバイトをしている。


 ここの店長は俺より背が低くて、眼鏡をかけていた。紫がかった少し長めの前髪を右側に流し、いつも胡散臭そうな笑顔を浮かべている。名前は教えてくれたが、聞き流してしまったので便宜上、店長などと呼んでいる。あまり呼んだことはないが。

 喫茶店だとオーナーとか店主とかのが正しいんだろうか?

 まぁ、そんなことはどうでもいいことだな。


 あの日、雨のなか座り込んでる俺に声をかけ傘を差し出してくれたのが店長だった。

 なにも言わない俺の手をひき、店に連れてきてタオルを渡しココアまでいれてくれた人間に、突然「うん。君暇でしょ? うちで働きなよ」と満面の笑みで言われた俺の心境を誰が察しえよう……。

 無論、理解できなかったので反射的に「は?」と返した俺に「最近少し忙しくてね、ちょっとお手伝いしてくれるだけで大丈夫だから。君、そこの大学の子でしょ? 給料はもちろん出すよ」などと笑顔でひたすら労働時間やら時給やらを並べ立てられ勢いに圧されたのと、バイトをもともと探してたのもあって流されるままに勤めることになった。

 バイトの条件はとてもよかった、とだけいっておこう。

 ただ問題なのはーー俺には笑顔で接客ができないってことだな。


「その仏頂面なんとかならないの?」

「ならない。ダメなら辞める」


 呆れた。とでも言いたそうな顔で店長は俺を見上げる。


「まったく、わがままなんだから」


 わがままで済ましていいのか……。

 やれやれ、と不満そうな顔で店長は業務に戻っていった。

 何を考えてるのかさっぱりわからない。

 だが、聞くのも面倒なのでそっとしておく。

 バイトの時間もそんなにないし、忙しいというわりには客は少ない。俺がいる意味もよくわからないが、辞めさせる気も就業時間の変更も今のところないようだ。


「なに? 忙しそうに見えないって? 平日はだいたいこんなもんだよ」


 穏やかに笑って、漫画の続きを読む店長。

 それを横目に、後片付けをする。


 仕事は楽だが、これでいいのか……と多少不安になる。

 忙しいの意味を知るのはわりとすぐだった。

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