308 異世界のハチミツを食べよう
クリリの入学式も無事にすみ、毎日店でため息ばかりついているとタケルが珍しいものを手に入れてきた。
ハチミツだった。それもまざりけっのない本物のハチミツ。
「どうしたの? これ?」
「ハチミツだ」
「見ればわかるわよ。そうじゃなくてどうやって手に入れたの?」
私が尋ねるとタケルは得意そうな顔をした。
「クマから奪ってきた」
「えっ? ハチからじゃなくてクマから奪ったの?」
「ハチから奪うより、クマから奪う方が簡単だからな」
普通はクマから奪ったりしないと思う。
タケルにハチミツを奪われたクマさんが項垂れている姿が目に浮かぶ。かわいそうすぎる。
クマさんごめんなさい。災難が降ってきたと思って、我慢してね。
ハチミツは健康と美容にも良いから、結構高い。百均で売っているハチミツも問題なく美味しく食べられるけど、やっぱり本物は違う。日本では100パーセントなハチミツって、結構高価で手が出ない。
クマさんには悪いけど美味しくいただくことにした。
「まずはパンにつけて食べたいわね」
「ああ、それが良いな」
とりあえず百均で買った食パンを焼く。そしてパンの上にたっぷりとクマさんから奪ったハチミツをかけた。
サクサクッとした生地に甘いハチミツが絡まって、なんとも言えない味だ。
「すごい! 本物の味ね!」
「これは.....! 何枚でも食べられそうだ」
タケルもたっぷりとハチミツをかけて、ガツガツと二口で食べてしまった。
やはりというべきか、たくさんトーストしててよかったよ。タケルのお腹は底無しだからね。
とはいうものの壺に入ったハチミツはまだまだたくさんある。
たっぷりとハチミツを入れたシフォンケーキと夕飯はハチミツ入り酢豚とコッコウドリのハチミツマスタードマヨあえなんかも良さそうだ。それでもだいぶハチミツがあまりそう。
ティーグルも鼻クンクンさせているので、ミルクに混ぜてから餌箱に入れる。
美味しそうに飲んでいるティーグルをタケルと眺めていた。尻尾がパタパタと揺れている。
「クリリに食べさせてあげたいわね〜」
「クリリにも食べさせたいなぁ」
タケルも同じことを考えていたようだ。
「次の休みに持っていくか?」
「でもその日はクリリは授業がある日よ」
「授業が終わったら会えるだろう。面会予約を出しとくか」
なんというか結局タケルもクリリのことが気になってるんだよね。
クリリは入学式の時に会ったときは元気そうだった。いじめられてないかと聞いたら、全然大丈夫だと笑っていた。クリリは結構強いから負けることはないだろう。そしてものすごく速いから、やばそうなときは逃げるだろう。
私よりよっぽどしっかりしているクリリ。
それでもやっぱり遠くにいると心配になるんだよね。