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306 ヴジャイナ学院 3—クリリside

 寮の手続きを済ませると寮長が部屋へと案内してくれた。

 クリリに与えられた部屋はかなり立派な部屋だった。平民であり獣人でもあるクリリだったので個室で暮らせるとは思わなかったので、クリリはその部屋を見て驚いた。


「こんな立派な部屋のお金なんて払えないよ~」


 クリリが青くなって呟くと部屋の案内してくれた寮長のグレゴリー・バルスターが首を傾げた。


「心配しなくても寮費は前払いだからもう支払いが終わっているはずだよ。君の後見人である勇者タケル様がこの部屋に決めたそうだから支払いも彼がしてくれたんじゃないかな」

「えっ? タケルさんが? うーん、こんなに立派じゃなくていいのに…うわ~シャワー室に簡易キッチンまであるよ~」


 勉強部屋以外に寝室が別にありトイレにシャワー、さらに簡易キッチンまであり王都の高級宿屋よりも立派な部屋だった


「う~ん、この学院の寮はほとんど個室なんだ。だからこの部屋は特別にすごい部屋でもないよ。従者を連れてくる貴族もいるからもっと広い部屋も多いからね。まあ、中くらいの部屋だと思えばいい。二人部屋もあるけど、君の場合同室者を決めるのが難しいからね」

「やっぱり獣人と一緒は嫌がられますか?」

「二人部屋を使うのは貧乏貴族か貧乏な平民なんだが、獣人が嫌とかじゃなく動物の毛アレルギーの問題があるからね。あと…、モフモフ好きがたまにいるから気を付けた方が良い。そっちの方が怖いと思うよ」


 動物の毛アレルギーと聞いて、クリリはなるほどと思った。孤児院でも数人動物の毛アレルギーの子がいた。一緒の部屋で暮らしているとくしゃみが止まらなかったり、湿疹がでたりして大変だった。その子たちは特別に獣人が嫌いなわけではないのに身体が拒否するのだからどうしようもない。孤児院では掃除を徹底したり眠る部屋を分けたりして対処していた。

 でもモフモフ好きとはなんだろうか。はじめて聞く言葉だ。クリリは首を傾げた。


「モフモフ好き?」

「えっ? 知らないのかい? あいつらは厄介だ。特に隠れモフモフ好きは要注意だ。攫われないように気を付けろよ」


 寮長のクリリを見る目は真剣だった。からかっているわけではなさそうだ。


「だからそのモフモフ好きってなんですか? 獣人が好きな人たちってことですか? それならむしろいいような気もしますが」


 獣人が好きな人となら一緒の部屋でも問題ないと思う。何が問題になるのだろう。


「確かに一見獣人が好きな良い人なんだが、病的な人も多くいて、自分のペットにしようとする危ない人や尻尾フェチや耳フェチのモフモフ好きの連中は刈り取ろうとするものもいるらしい。個室の方が安全だというのはそういうわけだ。眠っている時にバッサリってこともあるだろ? おそらく勇者タケル様はそのことを案じて一人部屋にしたんだと思うよ」


 クリリは尻尾をバッサリと刈り取られることを想像して身震いした。

 個室で良かったと胸をなでおろす。きっと自分で決めていたら二人部屋を選択していただろう。個室のお金を払ってくれたタケルさんに感謝するクリリだった。


「寮長は貴族の方ですよね。獣人である俺のことなんとも思わないのですか?」

「私はアレルギーもないし、人間至上主義者でもないから特に気にはならないよ。クリス様にも頼まれているから、何かあったらいつでも相談に来てくれ」


 グレゴリー寮長は獣人に対して何も思っていないようで安心だ。でも誰もが彼のように接してくれるわけではないだろうから気を付けないとね。そういう意味でもキッチンがあるのはありがたい。簡易キッチンだけど簡単な料理なら作れそうだ。

 寮長は寮で暮らしていくための大まかなマナーを説明してくれた。食事は食堂で朝食は六時から七時半までで、夕食は十八時から二十時までにとること。これは自分の好きな時に食べれるけど、時間が間に合わなければ各自で食事を用意して食べることになる。貴族の中には家から持ってきた料理を食べる人も多くいるらしい。お風呂の時間は十七時から二十一時までだと言われたけど、クリリは利用するつもりはなかった。

 元々お風呂はあまり好きではないし、獣人が入ることで不快に思う人もいるだろう。部屋にはシャワーもあり、いざとなれば洗濯の魔法を使えばいいと考えていた。だがそれは次の寮長の言葉で、使えなくなった。魔法は原則として学校内では禁止で、授業の時と先生の許可がある時だけしか使えないと言うものだった。クリリはシャワーがある部屋で良かったと胸をなでおろした。


 寮長が去ると早速荷物を整理する。

 教科書もすでに机の上に置かれている。パラパラとめくるとインクのにおいがする。

 自分だけの教科書だ。それだけで気分が高揚する。

 入学式は三日後だ。することもないし明日からは予習でもしようかなとクリリは考えていた。





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