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305 ヴィジャイナ学院 2—クリリside

 プリーモさんはプリーモ商会の会長だ。

 はっきりいえば商業ギルドでも一番力がある人物だった。

 その会長の突然の登場に驚いたのはナナミ達だけではなかった。一番青くなったのはこの店の店主だった。


「バラント、君の店はいつから客を選ぶようになった? この者たちが私の知己だと知っての狼藉なのか?」

「か、会長の知り合いとは存じませんでした。も、申し訳ありません」


 先ほどまで偉そうにしていた男が、米つきバッタのようにぺこぺこと謝っている。

 プリーモ会長に睨まれたら、この王都で商売はできない。それどころかこの国で商売するのさえ難しくなることを男は知っていた。


「ふっ、本当かのう。私が『マジックショップナナミ』と懇意なのは王都では有名だと思っていたが。まあいい、今回のことは不問にいたそう。だが早急にクリリ君の制服を作るのだ。間違っても安物の端切れを使用して恥をかかせるようなことはしないだろうが、もしそのようなことをしたら、私が相手になると思え!」

「はっ、最上級の制服を作ります。さ、早速採寸いたしましょう。クリリ様、どうぞこちらに…」


 クリリは呆れた表情でバラントと呼ばれた男の後をついていく。


「プリーモさんってすごい人だったんですね~」


 ナナミさんの呑気な声が後ろから聞こえた。もう怒ってはいないようでホッとした。



 採寸を終えたクリリ達はプリーモ商会の応接間でお茶をしていた。


「それにしてもこんな嫌がらせをしてくるなんて、先が思いやられるわね」

「そうだな。学院に入る前から嫌がらせをしてくるとは思わなかったな。プリーモはどうしてわかったんだ?」

「蛇の道は蛇というやつです。どこからか噂が入ってくるものです。特に私が『マジックショップナナミ』と懇意にしていてクリリとも仲が良いことは有名ですからな」


 クリリは仲が良いと言う言葉に首を傾げた。プリーモ商会主催のオセロ大会で儲けさせてもらってはいるけど、仲良しだとは思っていなかった。プリーモ商会の会長と孤児では世界が違う。そんな風に思っている人がいるとは信じられない。


「それにしても助かったわ。もう少しでタケルがあの店を壊しそうだったもの」

「はっははは。それは惜しいことをしましたな。あの店が壊れるのを見るのも一興でしたな」


 大笑いをしているプリーモ会長を見ながらクリリは考えていた。なんだかんだ言ってるけど、プリーモ会長は、結局のところあの店の危機を救うために現れたのかもしれない。

 あのままではタケルはあの店を半壊していたはずだから、それを止めるためにわざわざ姿を現したのではないだろうか。


「お前は本当に食えないやつだよ」


 タケルもそのことをわかっていたのか苦笑いしている。


「クリリ君は入学式がすめばこの王都で暮らすことになりますから、いつでも遊びに来てください。最近では自転車も順調に売れているんですよ」

「乗っている人を見かけたわ。でもまだふらふらしていて危なそうね」

「ナナミさんもそう思いますか? 王都は人通りが多いせいかよけるのが難しいようです」

「そのためにベルがあるんだ。事故にならないように使わせた方がいいな」


 クリリも自転車を持っている。できれば王都でも使おうと思っていたけど、あまり目立ちたくないのでどうしようかと悩んでいた。でも王都でも乗っている人がいるみたいなので内心喜んでいた。


「クリリは王都でも自転車に乗るのか?」

「うん、そのつもり。その方が移動に便利だもん」


 クリリはタケルに尋ねられて素直に答えた。

 王都は広い。乗合馬車があるけど、できればお金を使わないで移動したいとクリリは考えていた。獣人だから走るのも早いし、少々の移動は困らないけど自転車の方が良さそうだ。

 しばらく話をした後、クリリ達はタケルの転移魔法でガイアに帰った。



 クリリが次に王都に来たのは制服をあの店に取りに行き、入寮するためだった。

 ようするにお別れの日でもある。

 ナナミは最後の別れでもないのに朝から泣きっぱなしで、クリリは弱っていた。


「おいおい、そんなに泣いていたら、クリリも困るだろう。学院への入学は辞めるとか言いだすぞ」

「そ、それはりゃめ…うっ、うっ、ごめんね、クリリ。にゃかないつもりだったのに…」

「それはいいけど、言葉が変になっているよ、ナナミさん」


 結局ずっと泣きっぱなしだったナナミは最後まで泣き止むことはなかった。

 後ろ髪を引かれる思いで、寮への道を歩く。

 次に会えるのは入学式の日だ。両親のいないクリリの親代わりとして出席してくれることになっている。


「もしかして入学式の日も泣くのかなぁ…」


 ちょっとだけ憂鬱になるクリリだった。



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