304 【番外編】 異世界でハロウィン
ハロウィンが近付くと百均はカボチャだらけになる。
私はたくさんあるカボチャグッズを買わなかった。この世界にもカボチャはあるけどハロウィンがないから売れるとは思えなかったからだ。
でもその商品がまとめて安売りになったのを見て、思わずポチッと押してしまった。そして『マジックショップナナミ』は一夜にしてカボチャだらけの店になっていた。
「ど、どうしたんだ。このカボチャグッズは?」
タケルはカボチャだらけになった店を見て目を見開いていた。さすがに多すぎたかも…。
「うーん、なんかこうのせられたちゃったのよね~」
本日限りの大安売りって言葉に弱いのはいつものことだ。でも今回はさすがに買いすぎたかなって思っている。
「ああ、そうか。日本ではハロウィンが終わったころか」
「そうみたい。売れ残った分がこっちに流れてきたのかも。まあ、こっちの世界だったら季節に関係なく売れそうだけど」
日本だとどうしてもカボチャ系の商品はハロウィン関連だと思われてしまう。数年前まではそれほどメジャーなイベントではなかったのに、今ではバレンタインデーのチョコよりもハロウィンのお菓子の方が売れているという統計がでているくらいだ。
「うーん、それにしても多くないか?」
「そうね。カボチャのお化けが出てきそうね」
コレットさんも苦笑いしている。
そう、ハロウィン系のものってお化けっぽいのが多いんだよね。もともとが秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いがあったからだろう。
「でも可愛いって、結構売れてるよ」
クリリもカボチャとお化けの絵が描かれたコップを買っていた。どうもお化けの絵が気に入ったらしい。
もちろん二号店やホテルでも売ってもらっている。在庫をさばかないといけないからね。
「というわけで、今日の夕飯はパンプー料理にしました!」
パンプーとはこの世界でのカボチャの名前だ。
カボチャ料理は沢山あるから悩んだ結果、いろいろな種類の料理を作った。
「パンプースープ、パンプー天ぷら、パンプーの煮物、パンプーシチュー、パンプーグラタン、パンプーコロッケなどなど…ごはんもいっぱい炊いてるからね~」
「す、すごいなぁ、これだけ並ぶと圧巻だな」
ハロウィンパーティーとはいかないけど、クリリのしっぽと耳を見ていると仮装しているようにも見える。エルフのエミリアもいるからなおさらだ。
私は猫耳のついたカチューシャをタケルに渡す。ハロウィン用のカチューシャが余っていたのだ。
猫耳を渡されたタケルはとても嫌そうな顔をしている。
「ハロウィンは仮装しないと食べられないんだよ」
「いや、これはハロウィンじゃないだろ。それにクリリ達だって別に仮装してるわけじゃないし…」
タケルは断固拒否する構えだ。ふふん、甘いね。
「クリリもエミリアも仮装だよね」
私が尋ねると二人は頷いた。
「うん、仮装だよ」
「そうよ、仮装してるのよ」
食べ物前ではみんなこんなものだ。すきっ腹にいい匂いがしているのだからタケルが落ちるのも時間の問題だった。
タケルは悔しそうな顔をして私が渡した猫耳を付けた。結構似合っている。しっぽもあったらサイコーだったね。
ちなみに私は百均で売っていたハロウィン用の三角帽子をかぶっている。何の仮装かは正直よくわからない。たぶん魔女だと思うんだけど…。
「パンプーってこんなにたくさんの料理があったのね。この甘そうなのは何?」
エミリアにとってのパンプー料理は焼いたものかスープの中に入っているものだったらしい。こんな風にたくさんの美味しい料理に化けるなんてと呟いている。化けたんじゃなくて料理しただけなんだけどね。
「これはねパンプキンじゃなくてパンプーパイとパンプープリンよ」
「デザートにまでパンプーを使っているのね」
「パンプーは甘いからデザート向きなのよ。今までこれをデザートに使っていないのが不思議なくらいよ」
「ほんと! 絶品ね」
エミリアは一口味見をしたらしく目を輝かせている。
「おい、デザートは食事の後に食べるものだぞ」
「なによ。一口食べただけじゃない。本当にタケルは食べることになると人が変わるんだから…」
「このコロッケすごく美味しい。ほくほくしてるよ~。それにスープも甘くてたくさん飲めそう」
「おい、クリリ。全部食べるんじゃないぞ」
「そうよ、クリリ。先に食べるなんてずるいわよ」
「だって二人とも遅いんだもん。良い匂いしているのに待てないよ」
オオカミの嗅覚は人の何倍もするから待てないよね~。
たくさん作ったので余ったら、カバンに入れておこうと考えてたんだけど心配する必要はなかった。すごい勢いで食べている三人を眺めながら味見だけで飽きてしまったパンプーを横目にキムチラーメンを食べている。甘いものばっかりだと辛いものが食べたくなるのよね~。