書籍二巻発売記念小話 ティーグル
いつも読んでくれてありがとうございます。
二巻のネタバレがあるのでご注意ください。
なぜかタケルとクリス様の三人でボートに乗ることになっていた。昨日落ちたばかりの湖が目の前にある。
ビラビラもたくさんいるのが見える。なんだか狙われている気さえする。
「大丈夫だって。万が一落ちてもすぐに助けるから」
タケルは自信満々で笑っている。昨日も助けてもらってるからその辺は信用している。
ただ一つ気になっているのはティーグルの存在だ。昨日はほとんど寝ていたからか今日は私たちの後をのそのそと歩いている。そしてなぜかボートに一緒に乗ろうとしているのだ。
「おっ、ティーグルも乗るのか? さては昨日食べた魚を捕るつもりか?」
タケルがティーグルに声をかけるとティーグルは「ニャッ」とだけ鳴いた。えー? まさか本気? ティーグルはビラビラを美味しそうに食べてたけど、そんなに気に入っていたとは気づかなかった。飼い主失格だよ。
三人と一匹でボートに乗ったものの、ティーグルはどうやって魚を釣るつもりだろう。
「ティーグルは釣りができるんですか?」
クリス様が不思議そうな顔で聞いてくるので首を振る。
「猫が魚を釣るなんて無理ですよ」
「そうですか。でも自信満々ですから何か考えでもありそうですね。人間の言葉を理解しているくらいですからすごいことをしてくれるかもしれません」
いやいやいや、クリス様はティーグルを過大評価しすぎている。しばらく一緒に暮らしている私にはよくわかる。ティーグルは何も考えてない。ただただ、ビラビラが食べたいだけだ。怠け者のティーグルにしては早起きだったのもそのためだと思う。
とは言うもののここまで期待されているのだ。飼い主としては何かしてほしい。ジッとティーグルを見る。なんでもいいから何かしろと言う目にティーグルは毛づくろいをして誤魔化す。
しょせんこんなものよ。毛づくろいで忙しいティーグルは放っておくことにする。
タケルはボートを漕ぐのが上手であっという間に真ん中に到着していた。
「あれ? あそこにいるのクリリとベスだよ。ビラビラ釣れるといいね」
ティーグルもビラビラと聞いてクリリのいる方向を見ている。するとティーグルが「ニャッ!」と鳴いた。ベスの竿にビラビラがかかったようだ。
「ビラビラ釣りはここからが難しいんだ」
タケルが専門家のように呟いている。クリス様も気になるようで、みんなの視線はベスを見ていた。ベスは私と違って力があるのか、ビラビラに負けてない。ぐいっとビラビラを釣り上げた。
「やったーーーー!!!」
私はそこがどこなのかすっかり忘れて、立ち上がってベスに手を振る。グラグラと揺れるボートに慌てたのはティーグルだった。
「ニャニャーーー!」
ティーグルがボートの上で暴れる。せっかくタケルが捕まえてくれたのに落ちそうになる。クリス様がティーグルを抑えてくれたので助かった。
「ったくティーグルは人騒がせなんだから!」
私がティーグルにそういうとティーグルも鳴いた。
「ニャニャニャニャーー」
「謝ってるのかしら」
「人騒がせなのはナナミだって言ってるよ」
タケルがいかにもって感じで通訳をするとクリス様が噴き出した。えー、それはないよ。