293 慰安旅行 3
自然災害をどう乗り切るか。
まさか異世界で初めての船旅で嵐を経験するなんて。
頭を悩ませているとタケルが首を傾げた。
「ここは日本じゃない。俺たちには魔法があるだろ。なんとかなるさ」
タケルは嵐ぐらいでは悩む必要はないって顔だ。
「魔法? 転移魔法のこと?」
確かにタケルの転移魔法ならあっという間に家にだって変えることが可能だ。これで日本へ帰ることができたら最高の魔法なんだけどね。
「まあ、転移魔法は最後の手段かな。船を見捨てられない人たちもいるだろうから」
船員たちは命が危険にならない限り船を見捨てることはしないそうだ。船がなければ死活問題になるのさから当たり前かな。
「じゃあ、どうするの?」
「防御魔法を使う」
「そっかぁ。防御魔法で船ごと守るってことね」
なんだ、魔法があれば簡単じゃない。心配して損しちゃった。ん? それなのに難破船とかあるのは何故なのかしら。防御魔法を使えば難破なんてしないのに。私の疑問にはクリリが答えてくれた。
「防御魔法で船ごと守るって結構大変だよ。魔力が大量にないと無理。特に嵐が相手なんだし、どのくらい魔力がいるのか想像もつかないよ」
タケルの魔力ってもしかして無限大なの? すごーい。
尊敬の目でタケルを見ると、タケルが訝しい顔で私を見た。
「なんか勘違いしてないか? 俺じゃなくてナナミが防御魔法を使うんだ」
なんと! 私に防御魔法を使わせる気だったみたい。タケルがするほうが確実なのにどういうことなの? 最近私に対する扱いが雑になってる気がするよ。
「へ?」
無理だって首を横に振る。甲板に立つのだってやっとこさなのに、嵐の中で魔防御法なんて使えないよ。失敗して海の中に落ちる未来しか想像できない。
「当たり前だろ。もし駄目だったら転移魔法を使うことになるんだから、俺の魔力は出来るだけ残しておきたい。これはナナミにしかできないことだ」
どうやらタケルの魔力は無限大ではなかったようだ。がっかりだ。今までで一番がっかりしたよ。
「私の魔法で本当に大丈夫なの? 嵐の最中に甲板に倒れないで立っていられるとは思えないよ」
「ナナミには女神さまの加護もあるから、万が一落ちても大丈夫だろ。それに俺ができるだけは補助するから大丈夫、大丈夫」
「他人事だと思って。こういう時はお前のことは俺が守るからくらい言ってよね」
ブツブツと文句を言ったけどタケルは知らん顔。まあ、急にそんなこと言われたら困るけどね。
「タケルさん、俺は? 俺は何をしたらいいの?」
クリリは私と違って何か手助けをしたいらしい。落ちたら大変なんだから何もしないでほしい。学院に入学する前に怪我でもしたら大変だよ。
「そうだなぁ。クリリは、まだ小さいから飛ばされないように甲板には出ないほうがいいだろう。女神さまの加護もないし、部屋で待っていろ」
「えーーーーーっ!」
クリリはちょっと不満そう。ちなみにティーグルも飛ばされそうなので部屋で待機することになった。
風が吹くくらいで嵐の兆候はまだない。青い空を眺めながらタケルの勘違いだといいなと思う。