288 面接の特訓
ヴィジャイナ学院の試験は秋に行われる。
クリリもこの試験に向けて勉強している。一度読めば覚えているクリリだけど、試験科目は多岐にわたるのでクリス様から渡された本を隅から隅まで勉強している。
魔法の実技はタケルに教わっているので心配ないらしい。
問題は面接だった。この面接は両親とクリリが揃って受けると聞いたので、両親のいないクリリには保護者として私が出席しようと考えていた。
「えっ? ナナミさんが行くつもりですか?」
クリス様が驚いたような顔をしている。タケルも目を丸くしている。
クリリはちょっと困ったような顔をしているけど、嫌がってはいない…と思う。
「クリリの保護者だから当然でしょ」
「でもナナミは年相応には見られないから、子供だけで面接に来たと思われるんじゃないか?」
タケルに言われてそうかもしれないと気付く。この街に初めて来たときは子供と勘違いされていた。でもクリリの保護者しての立場を譲りたくはない。
「でも私が保護者なのに…」
「いつから保護者になったんだよ」
いつからって親のいない子供の雇い主になったからには、保護者になるのは当然だと思う。
「うーん、ナナミさんの気持ちはわかりますが、面接次第では合格か不合格かになるわけですから、面接はうちの父が適任ですよ。クリリの住んでいる街の領主ですからかしくおかしくもないです」
クリス様に言われて私も考える。保護者としてクリリの役に立ちたくて面接に一緒に行こうと思っていたけど、足を引っ張るつもりはない。
確かに私よりガーディナー公爵家の当主の方が適任だろう。
「で、でも公爵様はお忙しいでしょう? 面接に出席できるの?」
「面接の時だけ仕事を抜け出すことは出来ますから大丈夫ですよ。それに父は面接に慣れていますから任せてください」
みんなに説得されて面接に同行するのは諦めたけど、入学式には絶対に保護者として出席するんだからね。
「面接ってどういうことを聞かれるの?」
ドアの開け方や椅子の座り方をクリス様から習っていたクリリは面接の内容が気になるようだ。
「ほとんどは親がいろいろと聞かれる。日頃の行いとか得意科目や苦手科目などいろいろ聞かれるらしい」
「らしいってお前も面接を受けたんだろ?」
タケルが訝しそうな顔でクリス様を見る。私も同じような顔になっていたと思う。
クリス様も学院の試験を受けたのだから当然面接も受けたはずだ。
「それが私の父はあまり聞かれなくて、すぐに面接が終了してね。だから参考にはならないだろうと思って、他の人に聞いてきた」
「どうしてあまり聞かれなかったの? クリス様が優秀だから?」
「違うよ。父は公爵だから遠慮されたみたいだ。学院の中には身分の差別はないことになっているけど、公爵家当主である父には表面的なことしか聞けないみたいだったよ」
「それならクリリも安心ね」
私はクリス様の話を聞いてホッとした。でもタケルは違った。
「いや、それはどうだろう。クリリは獣人だし、公爵家の人間ではないから、公爵に質問が来ない分、クリリが的になるかもしれないぞ」
「面接の質問がクリリに集中するってこと?」
そんなことになったら大変じゃない。やっぱり保護者として私が出席したほうがいい気がしてきた。
「大丈夫ですよ、ナナミさん。そのために傾向と対策を練っていますから。今日は面接の特訓です」
クリリのためにそこまでしてくれるクリス様に頭が下がる思いだ。特訓と聞いたクリリはビクッとして尻尾が垂れている。
「が、頑張るよ…じゃなくて、頑張ります」
学科と実技は大丈夫だろうけど面接が気になるとクリス様が言った意味がやっとわかった。確かに敬語はあまり使わないから難しいかもね。
がんばれ~クリリ!