287 手作りの豆腐を食べよう
大豆の収穫が終わたので、タケルは念願の豆腐を作った。百円コンビニで買えるけど手作りのとうふが食べたかったようだ。
初めて作ったとは思えないほど上手にできていたけど、豆腐はこの世界ではあまり人気がない。豆腐に味がなく、ふわふわして歯ごたえがないのが原因らしい。
でもクリリは麻婆豆腐だけは気に入っていて、いつも食べたがる。ピリッとした辛さがたまらないらしく、麻婆豆腐の素は店でもよく売れている。豆腐はこの世界にはないから野菜を代わりに使用するように、箱にも書かれているのだ。
そういうわけで、大量に作った豆腐を使うためとクリリのリクエストに応えて本日の夕飯は、麻婆豆腐とチャーハンと手作りの餃子と中華たまごスープと中華ではないけど豆腐が余ったので湯豆腐も作る。
「この辛さが癖になるみたい。もっと辛くてもいかも」
「じゃあ、次は辛口にしようね」
クリリは意外と辛いものが好きみたい。お子様だからと甘口にしたのは間違いだったかな。
「ビールにも合うし、サイコーだな」
「サイコー、サイコー!」
油断をしているとクリリとタケルの二人に全部食べられてしまう。私とエミリアは必死に箸を動かす。
餃子を分けずに一皿に入れて中央に置いたのは間違いだった。クリリとタケルの食欲を甘く見ていた。
「次はもっと作ったほうがいいわね、ナナミ」
「そうみたいね。まさかこんなに早くなくなるなんて思わなかったわ」
手作りだったせいか、いつもより餃子の無くなりようが速い気がする。あっという間に手作り餃子は無くなってしまった。
「今日の餃子はモチモチだな。それに焼きもうまい」
「そうでしょう? 今日はフライパンが違うのよ。鍛冶屋のジャモンさんに作ってもらったの」
鍋類はこの世界にきて、急いで買ったもので安さで選んだものばかりだった。それで不自由はなかったので気にしていなかったけど、コレットさんが鍛冶屋さんにフライパンを注文すると聞いて一緒に注文することにした。オーダーメイドのフライパンは実に使いやすく軽かった。私に合わせているから握るところも丁度いい大きさだ。
すぐに他の鍋も注文した。出来上がるのに日数がかかるけど、早く使いたくてとても楽しみだ。
「そんなにいいのか? 俺も注文するかな」
「タケルは料理しないんだからいらないじゃない」
「何を言ってるんだ。俺だって料理くらい少しはしてるぞ」
タケルが料理をしている姿なんて見たことない。でも言われてみれば朝ご飯は自分で食べている。もしかして少しは作っているの? ラー麺とかじゃなく?
クリリの方を見るとクリリは肩をすくめた。
「サラダとかサラダとかだよね。後はパンとカップスープだと思う」
それって料理と言えるのだろうか。私とタケルでは認識が違うようだ。
「サラダに入れるゆで卵とかカップスープも湯を沸かすから鍋使っているだろ」
確かに鍋は使っているようだけど、それって今のままの鍋で十分だよね。私がそういうとクリリも頷いている。
「いや、ゆで卵もいい鍋を使うと違う気がする。それに目玉焼きにも挑戦するつもりだから…」
宝の持ち腐れという言葉が浮かんだけど、せっかく料理(?)をする気になっているみたいだから黙っておくことにした。
餃子が無くなったので季節外れの湯豆腐をポン酢で食べる。手作りの豆腐はやっぱり味が違うよ。日本人である私には懐かしくて美味しい味だ。
クリリとエミリアは大量にある麻婆豆腐をハフハフと食べている。
タケルは一瞬だけ悩んで、湯豆腐に……。
いつかきっとクリリやエミリアも湯豆腐が好きになる日が来る…たぶんね。