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285 ウルガはスパイ?

不穏な雰囲気のウルガはタケルの手によって追い出すことができた。でもあの調子では明日もやってきそうだ。


「ナナミ、治癒魔法使ったのを見られたのか?」

「み、見られてないよ。緑の光が見られただけなんだけど、感がいいのか私のこと疑っているみたい」

「ナナミさん、誤魔化し方が下手すぎるよ。きっとウルガって人に見られた後も何も言わずに逃げたんでしょ」


 クリリの言う通りなので何も言い返すことが出来ない。あそこで逃げたのは間違いだった。私のことは誰も知らないから大丈夫だって思ってた。翼猫が噂になってるなんて知らなかったよ。

 タケルは呆れた顔で私を見ている。


「まあ、徹底的なものを見られたわけじゃないから知らないふりで誤魔化すしかないな」

「はぁい。でもあの人変ですよ。普通の人はあそこまで気にしないですよね」

「治癒魔法の使い手は少ないから気にはするだろうが、あの目はどこかの国のスパイじゃないかな」

「ス、スパイ! 異世界にもスパイなんているの?」


 びっくりした私がタケルに聞くと、


「当たり前だ。こっちの方が多いと思うぞ」


と言われた。スパイかぁ。知ってたらもっと観察したのに…初めて見るスパイはごくごく普通の人だった。容姿も体系も一般的で、服装も浮いていなかった。

でもあの山で何をしてたんだろう。何か探してたのかな。


「スパイって山も探るの? あの山には魔獣もそんなにいないから冒険者もランクの低い人しか登らないのに…」


 クリリが不思議そうな顔で呟いている。


「本当に何もないのかを調べてたんだろ。この街には分不相応な神殿があるから、何か隠していることがないか気になるみたいだな。スパイはあいつだけじゃないってことだ」


 えー、それはないと思う。だってこの街って本当に普通の街なんだよ。確かに神殿は立派だけど、あそこのトップも平凡そうな人だったし。あれは絶対に隠し事とかできないタイプだった。この街に何か秘密があるのなら、もっとこう頭のよさそうな人が派遣されてると思う。


「神殿長を見る限り隠してることはなさそうだけどね」

「ナナミさん、ああ見えてすごく優秀なのかもしれないよ」


 クリリが笑いながらそんなことを言う。


「神殿はともかく、ここは公爵領だからスパイがいてもおかしくないさ。そう考えるとスパイは他国じゃないかもしれないな」


 まあ、どこのスパイだったとしても私には関係ないよね。


「いかにも自分には関係ないって顔だけど、あいつの目当てはカップ麺だって言ってただろ。『マジックショップナナミ』の商品を探りに来たスパイでもあるんだから、もっと緊張感を持てよ」

「へ?」


 そういえばカップ麺のこと言ってたっけ。でもどんなに探られたって何も出てこないよ。カップ麺を作る工場はここには存在してないし、研究されてカップ麺を作ってくれるのは大歓迎だ。きっと同じ味にはならないから楽しみだ。プリーモさんも絶対に研究してると思う。


「まあ、ナナミの鞄から商品が出てるっていうのがばれない限り大丈夫だとは思うけど、盗まれないように気をつけろよ」


 タケルが心配そうに鞄を見ている。私じゃなくて鞄が心配なんだよね。


「でもこの鞄から物を買うのも取り出せるのも私だけなんだし大丈夫だよ」

「そうだといいが…」


 鞄を通さないと商品が取り出せないのは不便だなって思う。もしこの鞄が盗まれたり、壊れたりしたらどうなるのかもわかっていない。なるべく肌身離さず持っているけど、さすがにいつも持ち歩いてはいない。

この鞄がなくなったらどうなるんだろう。不安から思わず鞄を強く握ってしまう。



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