281 かき氷の味は?
夏祭りではタケルのお店である《やきとり 縁》も屋台で出店しているようだった。話だけでまだ行ったことがないが、タケルがわざわざ作ったのだから、きっと日本にある焼き鳥屋と同じ味が再現されていることだろう。
「クリリ、後でやきとり買ってきて!」
「いいけど、だいぶ並んでるって話だよ」
「えー、そうなの? じゃあ、今日はあきらめるかぁ。今度店の方に食べに行こうね」
「うん」
だらだらと話をしているけど、ナナミの店もかき氷と綿菓子のどちらにも列ができている。孤児院のほうでも同じものを売っているから、長蛇の列にはなっていない。けれどその列は途切れることなく続いている。
うだるような暑さは久しぶりな気がする。ずっと家の中にいたから太陽の光が痛く感じる。
「ペットボトルの飲み物もたくさん売れてるよ。氷で冷たくしているからサイコーだよね」
この世界では飲み物を冷たくして飲んだりしていなかったようで、私が冷たくした飲み物を売ると爆発的に売れるようになった。(健康に良いかどうかは微妙だけどね)
冬は温かい飲み物を売るのもいいかもしれないと考えている。
「花火もよく売れてるな。それにしてもエミリアの売ってるものは祭りとは関係ないのに、どうしてあんなに売れているんだ?」
タケルが不思議そうに女の子が並んでいるエミリアの屋台を見る。エミリアの屋台では髪飾りやネックレスが売られている。
祭りなのでいつもの価格より割安で売っているらしく、朝から賑わっていた。
「エミリアは商売上手だよね。祭りの時って財布のひもが緩むから、そこを狙って安く売るんだもの」
「だったら安く売らなくてもいいんじゃないか?」
「そこが上手なのよ。いつもと同じ価格だったら、また次に買えばいいかなと思うけど祭りの間限りだと思うと今買わなければって思ってついつい買っちゃうものなのよ」
「そういうもんかあ。確かに女って本日限りとか、限定とかって言葉に弱いかもな」
タケルはふむふむと頷いている。限定ものに弱いのは女だけじゃないと思うけどね。
コレットさんは綿菓子を作るのがとても上手なので、黙々と作っている。アルビーはクリリが作ったかき氷に蜜や練乳をトッピングする係だ。少なすぎると不満も出るし、多すぎてもべちょべちになるから意外と難しいので、アルビーは真剣な表情で蜜をかけている。
「やはりいちごミルクが一番人気ね」
「そうだな。子供が多いから抹茶ミルクの良さはわからないみたいだな」
抹茶ミルクのかき氷にはゆであずきもトッピングしたるけど、ゆであずきの存在も知らない人が多いので苦戦している。日本なら抹茶は結構売れるのに圧倒的な大差でいちごミルクに負けている。
でも一番の不人気はみぞれ味だ。もちろんこれも練乳はかけてゆであずきもつけているけど、見た目が地味すぎて全く売れない。たまに知らない人が注文して、商品を見てがっかりしている。来年はみぞれ味はなくすべきかもしれないね。
「それにしても今年は去年よりも人が多くない?」
「プリーモホテルに泊まってる客も来てるみたいだ。それに王都からのツアーもプリーモ商会が企画したそうだ。ホテルが足りないから泊まるのは隣町にしたとか言ってたな」
プリーモさんはタケルの店の焼き鳥屋で酔っ払ってたくさんのことを喋ったようだ。
「プリーモさん頑張るね。ベスが言ってたけどプリーモホテルは一年中お客さんがいっぱいなんだって。冬はどうかと思ってたけど、冬は美肌温泉ツアーとかで客を募ったらしいからさすがとしか言えないよ」
「いえいえ、美肌温泉はナナミさんからヒントをいただいたからですよ。今度作った綿菓子も利用できるところがたくさんありそうで助かりますよ」
プリーモさんが突然現れた。そういえば綿菓子大会があるって言ってたね。
「プリーモさんのおかげで綿菓子も順調に売れてますよ。次は色付きに挑戦したいですね」
「えっ? 綿菓子に色が? そ、それは……」
プリーモさんは早速知りたがって大変だったけど、今日は忙しいのでまた今度と言って断った。プリーモさんの方も忙しいらしく、渋々と去っていった。
ホッと息をつく暇もなく夏祭りは終わった。来年はよその店を回りたいなと思うけど、もっと従業員増やさないとダメかな。