279 やきとりープリーモside
私、プリーモはいつも新しい商品のことを考えている。常に新しいものを探し、売り物にしてきた。長い人生だった。孤児だった私は自分で言うのもなんだが大変な努力をしてここまで頑張ってきたのだ。クリリを見ていると昔の自分を見ているようで微笑ましくなる。自分もクリリと同じように助けてくれる人がいた。裏切られることもあったが、自分が裏切ることだけはしなかった。それが成功できた秘訣だと思っている。
長い人生で不思議なことは多々あったが、ナナミさんほどの不思議はない。勇者タケルが傍にいるから何もできないが、本当はもっと近づいていろいろな新しいものに挑戦したいのだ。私の年ではあと何年生きられるかわからない。だからもっともっと知りたくて仕方がない。
今日は勇者タケルに呼ばれて、ガイアに新しくできるという《やきとり縁》に来ている。噂ではコッコウ鳥を主に使ったとり料理の店らしい。
「タケル様、今日はどういった御用ですか?」
店に入るとタケルだけが座っている。まだ開店していない店に何故タケルが座っているのか。それはきっとこの店がタケルの店だからだとすぐに気づいた。黒髪をした二十代半ばの男が串に刺した鳥を炭火で焼いている。炭火を使う料理を見るのは久しぶりだ。最近はあまり炭を使わない。魔石で火をおこす方が簡単だからだ。
「いや、いつも世話になっているから一緒にご飯でも食べようかと思っただけだ」
嘘だ。そんなことはない。優しい声をかけられても油断をしてはならない。これまでの経験でこういうときほど厄介なことを頼まれるのだ。逃げてしまいたい。だが勇者相手に逃げきれるわけがない。
ため息を押し殺してタケルの横の椅子に座る。もう注文はすませてあるのかエールが運ばれてくる。運んでくれる女性も黒髪だが、耳が獣の形をしているから彼女は獣人だろう。エールは冷たくて美味しそうだ。そして小さな皿に緑色のものが入っているものも置かれた。これは?
「枝豆だ」
「エダマメですか?」
「ああ、俺のところの畑で採れたものだ。こうやって食べるんだ。皮まで食べるなよ」
「なるほど。中の豆だけ食べるのですね」
タケルに言われたように食べると、手が止まらなくなった。これは美味い。冷たいエールによく合うおかずだ。
「このエダマメは売れますよ。もしかしてこれを売るのを私に任せてくれるのですか?」
いつも厄介ごとばかり頼まれていたが、今回はそうでもないのかもしれない。一瞬だけそう思った。
「いや、これはまだ売るほど収穫できてないから無理だな。この店で使うのだけで終わりそうだ」
ふっ、そんなことだと思ったよ。では何の用があるのか。気になる。気になるが、エールのお代わりをお願いする。冷たいエールがこんなに美味しいとは。
エールのお代わりと一緒に運ばれてきたのはコッコウ鳥を小さく切って串に刺したものだ。普通に焼いただけにしか見えない。グルメなタケルがこんな普通のものを? 首を傾げながら、タケルと同じように串を手でもって食べる。
「………」
言葉が出ない。なんだこの味は? ただのコッコウ鳥なのにジューシーで香ばしい。これなら何本でも食べれる。次から次へと運ばれてくる串をエール片手に口に運ぶ。
タケルおすすめのネギマやつくね、そして皮が私を魅了した。まさか皮がこんなに美味しくなるとは思わなかった。
いったい何本のエールを飲んだのか、何本のやきとりを食べたのか。酔ってしまった私にはどうでもいいことだった。この世の幸せをかみしめる。
「それでだな、急で悪いんだが夏祭りまでに綿菓子製造機を作ってほしいんだ。超特急で頼むな。作り方は明日にでも説明に行くから」
夢うつつに何か聞こえてくるがどうでもよかった。
「ハイハイ、ワカリマシタ。イクラデモツクリマスヨ~」
自分の声ではない誰かが返事をしている気がする。いや、私の声なのか?
まわ、いい。明日の話だ。
ワタガシセイゾウキ? なんだそれは?
まあ、いい。明日の話さ。
「エール、モウイッパイ!」