275 王女×3 1
アイリス王女は『マジックショップナナミ』の姉妹店、『マジックショップエルフの雑貨屋さん』で買ったビビクリームを見て、ニヤニヤと笑っている。
(これでお外で遊んでも怒られないわ)
王女は白くなくてはいけないとうるさく言われて外に出ることを禁じられることが多くて困っていたのだ。このビビクリームさえあれば日焼けの肌も誤魔化せるとエミリアが言っていた。エミリアの肌はどれだけ太陽にあたっても日が焼けないらしく、私の悩みがよくわからないようで羨ましいなとアイリス王女は思った。
「まあ、それが今噂のビビクリームなの?」
バニラ王女の声で我にかえる。バニラ王女とアニー王女は好奇心いっぱいの顔でアイリス王女の戦利品を眺めている。この国の王女なのに『マジックショップナナミ』で買い物をしたことがないなんて信じられないが本当のようだ。
「そうよ。私の国でも噂になっているの。貴女達が持っていないとは思わなかったわ」
「『マジックショップナナミ』は商品を城に売りに来ないから手に入らないの」
バニラ王女はしょんぼりとした顔で呟いている。
「まあ、来ないのなら来させればいいじゃないの。貴女達はこの国の王女なのに遠慮してはいけませんわ」
「それが父上が許してくれないんですの。ナナミさんには強引なことをしたらダメなのですって」
アニー王女はそれがとても不満そうだ。アイリス王女はナナミという娘が女神のカゴを持っていることを思い出して、確かに強引なことはしないほうがいいなと思い直す。それにあそこには勇者とエミリアがいる。怒らせたら厄介なことになる。
「そうね。確かに強引なことはしないほうがいいとわたくしも思うわ」
「まあ、いつも強引なアイリスがそんな風にいうなんて!」
バニラ王女が驚いた顔をしてアイリス王女を見る。いつも強引だなんて大げさなんだからとアイリス王女は思った。
「でもそれだといつまでも『マジックショップナナミ』の商品は買えませんわ」
アニーお王女の言うように正攻法では手に入らないだろう。
「わたくしにいい考えがありますわ。あちらが来ないのなら、こちらから行けばいいのです」
「「えっ!」」
バニラ王女とアニー王女はアイリス王女と違ってお忍びなどしたことが無い。ポカーンとした顔でアイリス王女を見ることしかできない。
「まあ。そんなに口を開けて、はしたないわよ。貴女達は城下町も歩いたことがないの?」
アイリス王女に注意されて二人のお王女は口を閉じる。
「馬車で通ることはあるけど、歩いたことはありませんわ。わたくし達が歩くと皆さんに迷惑になるからと言われていますの」
「確かに王女が歩けば警備もたくさんいるし迷惑になるでしょう。ですから変装して行けばいいのです。王女だってわかなければ騒ぎにもなりませんわ」
「「まあ、素敵!」」
アイリス王女は何度もお忍びと称して出歩いているので威張って言う。だがアイリス王女が知らないだけで、あれだけの護衛を連れていて気付かれていないわけがなかった。
だがそんなこととは知らない二人の王女は尊敬の眼差しでアイリス王女を見ている。
アイリス王女は二人の視線が心地よかったので、そのまま話を進めることにした。
「ふふふ、明日は私たち三人で遊ぶことになっているから、その時に決行しましょう。神殿の転移門は私の方で手配させとくわ」
「今度からはアイリスのことはアイリスお姉様と呼ばさせていただくわ」
「アイリスお姉様ありがとう」
アイリスお姉様、良い響きだわ。二人の尊敬の眼差しためにも成功させなくてはいけませんわ。
アイリス王女は拳を握りしめて、成功させることを誓うのだった。
「ところで貴女達は華美でないドレスは持っているの?」
「そうね、王都にある孤児院を訪問する時の服ならあるわ」
「そう。それなら大丈夫ね。二人とも誰にも話たらダメですからね。やったもの勝ちなんんですから」
「「はーい」」
二人の素直な返事に、これなら大丈夫ねとアイリス王女は思った。