273 王女様来訪2
王女様には話が通じない。それはよくあることなんだと思う。王女様なんて別世界の人だから私と同じ考えにはならないのだろう。
その別世界の王女様にいつまでも跪いてもらうわけにはいかない。
「王女様、どうか立ってください。困ります」
「まあ、では許してくださるのね。タケル様、お聞きになりましたでしょう? わたくしは許されたようです」
王女様は立ち直りも早かった。すくっと立ち上がるとタケルに向かって胸を張っている。
なんかとても疲れる人だ。そうだ、早く買い物を終わらせて帰っていただこう。
「王女様は今日は何を買いに来たんですか?」
タケルも同じことを思ったのか王女様に何を買いに来たか聞いている。
「ふふふ、わたしくしが欲しいものは、こ・れ・よ」
王女様はずっと握っていたのか、さっと差し出す。それは女王様がするにはどう見てもみすぼらしいけど、『マジックショップナナミ』で売っているカチューシャだった。
「手に持っているのに欲しいのですか?」
「ええ、色々なタイプがあるって聞いたのよ」
「おい、これをどこで手に入れた? まさか気に入ったからといって奪ったわけじゃないよな」
タケルが疑わしい視線を女王様に向ける。
「当たり前でしょう。きちんとお支払いしてるわ。十倍の値段で買い取ったから喜んでいるはずよ」
王女様は自信満々だけど、それはどうかなって思う。王女様の国からここまで普通の人が来るには大金がかかる。カチューシャは一銀貨だ。十倍で買っても一金貨。これで喜ぶ人がいるだろうか。王女様にはそう言うことまでは頭が回らないのだろう。
「はぁぁ。王女様に悪気はないんだろうが、そのカチューシャは返してやるんだ。お土産っていうのはいろんなものが詰まってるんだ。金で解決するなんて最低な行いだ」
「さ、最低ですか?」
「そうだ。今日ここで別のものを買うんだからそれは返してあげなさい」
王女様はショックを受けたようだ。自分の行いを否定されてばかりで頭が働かなくなったみたいに固まっている。
護衛の人たちもどうするべきか悩んでいる。わたしもどしたらいいのかわからない。何しろ王女様が相手だから対処の仕方がわからない。
「あらぁ、王女様じゃない。私のこと覚えてるかしら」
「エミリア様、もしかしてエミリア様もここに?」
「ええ、そうよ。今はここで売り子をしているの。あら、そのカチューシャはうちのだわ。となりに沢山あるのよ。それは初期に売ってたものでしょ? 今はもっと素敵なものがあるのよ。王女様には豪華版のカチューシャの方がいいと思うわ」
プリーモ商会で作ってもらっている豪華版のカチューシャ。他にも豪華版のヘアアクセサリーがあるのよ。それはこの世界では見られなかった形のものだ。私は庶民用のヘアアクセサリーだけでいいと思ってたけど、こう言う時のために必要だったのかな。
「まあ、嬉しい。早速見たいわ」
「そうね。でも勇者様の言うようにそのカチューシャは返してあげましょう? 貴女には似合わないわ」
「ええ、ええ。わたくしもそう思っていたの。必ず返すわ」
王女様の扱いに慣れているエミリアはさっさと王女様一行を連れて行った。
どうせならもっと早く来てくれればよかったのに。八つ当たりだってわかっているけどね。
「はぁ、厄介なやつだったな。早く帰ってくれるといいけど」
「王女様っているんだね、初めて見たよ」
クリリは初めて見た王女様に驚いたようだ。
「そりゃあいるだろう。この国にだっているんだから…」
へえ、この国にも王女様っているのかぁ。ってことは王子様もいるのかな。
「でも見たことないから、本当にいるのかなって思う時もあるんだ」
「そうだよね。王女様って普通は見れないわよね。じゃあ、今日はいい経験だったんだね。王女様が我が儘だってことも分かったし、なるべく近付かない方がいいね」
「そうだね、近付き過ぎないのが一番だよ」
クリリと私は王女様は懲り懲りだなって慰めあった。