270 ナットウ 1
好き嫌いの少ない私だけどアレだけは苦手だった。この世界に来てアレが存在しないことがどれだけ嬉しかったことか、好きな人にはわからないだろう。
タケルは出会った時から一度もアレについては尋ねて来ない。百均には売っていない食べ物だからなのか、タケルもアレが苦手だからなのかは聞いたことがないのでわからない。百円コンビニに売っていることを知って、一度だけ聞こうとしたけど薮ヘブになりそうだったのでやめた。
なにも寝た子を起こすこともない。
朝ごはんはエミリアとクリリと一緒に食べている。タケルは朝ごはんには現れない。たぶん朝が弱いんだね。
「今日の朝ごはんは玉子焼きとポテポテの味噌汁だよ〜」
「私は味噌汁が大好きになったわ。これを飲むとホッとするのよね」
エミリアが初めて味噌汁を飲むときは恐る恐る口に含んでいたので、こんなに気に入ってくれるとは思わなかった。
「うわー、今日の玉子焼きは甘いんだね〜」
「今日の玉子焼きは砂糖を入れてるからよ。それにしてもクリリ、まだ食べてないのに甘いってよくわかったわね」
「俺は獣人だから鼻が効くんだよ」
獣人って人間よりできることが多い。重い荷物も持てるし、目も私たちよりずっと遠くまで見ることができる。その上、クリリは優秀だから他の獣人より多くのことができる。
「クリリってなんでもできるのね〜。向かうところ敵なしって感じじゃない」
エミリアが珍しくクリリを褒めている。でもそれを聞いたクリリは肩をすくめて首を振る。
「俺なんてまだまだだよ。タケルさんには魔法も剣の腕も全然なんだから」
え? クリリ、タケルはああ見えて勇者なんだから敵うはずがないよ。勇者と自分を比べてまだまだだとしょげているクリリはすごいと思う。
私だったらはじめっからかなわないってわかってる勝負はしないもの。
「まさかクリリの目標がタケルだったとはね。まあ目標は高い方が伸びるっていうからいいのかもね。まあ、時間はたっぷりあるんだから頑張んなさい」
エルフであるエミリアさんと比べたら時間は少ないと思うよ。
「うん。頑張るよ。そうだ、タケルさんで思い出したんだけど、ナナミさんナットウってないの?」
「納豆って、クリリがなんで納豆を知ってるの?」
「タケルさんが朝ごはんの時に食べるものだって言ってたんだ。これが出たときは手紙で知らせろって言われてるんだ」
なんとタケルは納豆が苦手ではなかったのか。まさかクリリにそんなことを頼んでいるとは思わなかったよ。
「ナットウってなんなの? 美味しいの?」
新しいもの好きのエミリアさんが興味津々で聞いてくる。私が返事をためらっているとクリリが代わりに答えてくれた。
「臭くて酷い匂いがするけど、ご飯に合うんだって。ネバネバしてるって話だよ」
「臭くて酷い匂い? それだけで食欲失せるんだけど、本当にご飯に合うの?」
エミリアさんが訝しげな顔で私を見る。やっぱり私が答えないといけないのか。できるなら関わりたくないのに。
「そうよ。すっごく臭いの。ネバネバして糸を引くから箸が汚れて洗うときは大変なのよ。あれは食べなくていいと思うわ」
「ナナミさん、洗うのは魔法を使えばいいんだから気にしなくていいよ。それより美味しいかってことが知りたいよ」
「そうね、私もそれが一番気になるわ」
二人の顔は好奇心丸出しで、答えるまでは許してくれそうにない。はぁって息をひとつついて仕方なく口を開く。
「……食べたことないの」
「「は?」」
二人の目が点になった。
「だから、私は納豆は食べないって決めてるから、食べたことないの!」
申し訳ありません。269話の題名を間違えていました。
ツナマヨパンが登場していないのにツナマヨパンの題名をつけていて
私もどうしてツナマヨパンになっていたのかびっくりです。
今日は納豆のお話です。私は生まれてから今日まで納豆を口に入れたことがありません。
多分死ぬまで食べることはないと思ってます。
ですがナナミがどうするかはわかりません。次回、食べるのかなぁ〜。