262 ガーディナー公爵家での晩餐
ガーディナー公爵家での晩餐は豪華な食事で始まった。
クリス様が魔術大会で優勝したことで、私たちも気兼ねなく豪華な食事を堪能した。
クリス様の父親であるアンドリュー公爵と継母であるリリア夫人、そして異母弟のマリオ様を紹介された。クリリが獣人ということでいじめられてないか心配だったけど、この三人は獣人差別をする人たちではなかった。それどころか「モフモフ、触りたい」と言ってティーグルをモフモフして、クリリの尻尾や耳も隙があればと狙っているようだった。
「すみませんね。みんなモフモフしたものが好きなんです。」
そう言って謝るクリス様もティーグルを撫で撫でしているのだから笑える。
「はぁ〜、この感触たまりませんわ。ナナミさんはティーグルに乗って王都まで来られたと聞いてます。わたくしも乗ってみたいですわ?」
「リリア、抜け駆けはずるいぞ。私も乗って…」
「父様、僕も乗りたいです」
ティーグルの人気はすごいです。でもアンドリュー公爵とマリオ様はともかく公爵夫人がティーグルに乗るのっていいのかな。本人が乗りたいって言ってるし、公爵も反対してないから構わないのかもしれないけど、一応確認しておこう。
「公爵夫人がティーグルに乗っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。うるさくいう人もいますがガーディナー家は昔からお転婆な女が多いですから構いません」
公爵から承諾を得たので明日の朝はティーグルにみんなで乗ることになった。ティーグルは嫌そうだけど、長いものに巻かれることもときには必要なことなんだよ。
「ナナミさんは王都には店を出さないのですか?」
マリオ様が好奇心旺盛な顔で訊いてくる。十歳の少年の無邪気な問いは誰もが聞きたいことだったようで、みんなが会話をやめて私を振り返った。タケルは違うけどね。目の前の料理にしか関心はないようだ。
「王都ではプリーモ商会に任せているので今のところ考えてないです。王都は貴族の方が多いので私たちで売るのは難しそうです」
炉端や市場で売るぶんにはいいけど、、店を構えて売るのは大変そうだ。特に『マジックショップナナミ』は変わった物が多いので用心した方がいいと思う。タケルがいれば大丈夫だろうけど、貴族を怒らせたら首が飛ぶこともあるそうだから積極的には関わりたくない。そういうのはプリーモさんに任せるのが一番だ。
「最近知ったのですが、ガイアでも結構目立ってたせいで強盗に入ろうとした人がいるみたいなんです。騎士様が優秀だから捕らえてくださったそうですが、この王都で騒ぎを起こせば牢屋に入れられることもあると聞きました。こっちが悪くなくても貴族が相手だと喧嘩両成敗になることもあるとか。怖いので王都には店を出せないですよ」
アンドリュー公爵は私の話を真剣に聞いてくれていたが、途中からは怪訝な顔つきになった。
「そ、その話はどなたにお聞きになったのですか? 勇者様ですか? それともプリーモですか?」
「いいえ、アデル様です。今日、たくさん教えてくれました。王都って考えてたより危険なところなんですね」
「そうですか。アデルがそんな話を…。そういえば珍しくアデルが来ていないですね。こういう集まりにはいつも参加するのに。クリス、アデルはどうした?」
「そういえば話すつもりがなかったのにベラベラと口が滑ったとか言ってました。何を言ってるのかわかりませんでしたが、このことだったのでしょう。あいつは頭はあまり良くないがベラベラと余計なことを話すような奴ではないので、何処かの誰かが魔法でも使ったのでしょう。……タケルは何か知りませんか?」
クリス様はパクパクと食べているタケルに話しかけた。タケルはようやく食べる手を止めた。
「俺が何かしたとでも疑っているのか?」
タケルの声で温度が低くなったような気がした。
「違いますか?」
「そんなことをしても俺には何の得もない。クリスは疑う相手を間違っている」
「疑う相手が違う? ……? だが彼はあの場にいなかっただろう」
「あれは一筋縄ではいかない男だ」
「どうして放っておくのですか?」
「今のところ害がないからな。俺を裏切ったらどうなるかはわかっているから下手なことはしないだろう」
「せいぜい寝首をかかれないように気をつけてください」
二人の会話はよくわからなかったけど、公爵も公爵夫人もわかっていないようなので安心した。私が特別に頭が悪いわけではない。あれとか言われてわかるわけがない。一体誰のことを言ってるのか。
私は少しだけ考えたけどわからなかった。そしてこの後に出たデザートに感動している間に今の会話を全て忘れた。デザートはホットケーキミックスを使ったケーキだった。おそらく公爵家のオリジナルレシピだと思う。うーん。こういう使い方もあったのか。ホットケーキミックスは奥が深いなぁ〜。