261 魔術大会の見学 5
「マンボーの魔剣は炎の魔剣だ。それに風の属性も付与しているようだな」
タケルはマンボーの魔剣を見ただけでわかるようだ。
「その風を付与するときに誤って、髪を燃やしてしまったんだ」
アデル様も結構詳しく知っているようだ。まるで見ていたかのようではないか。
「よく無事だったな。髪が燃えたんだ、頭ごと燃えてもおかしくないだろ」
「クリスが助けたんだ。マンボーは昔っからクリスをライバル視してたから魔剣を見せびらかしに来て、あれは不幸な事故だった」
アデル様は痛ましそうな顔でマンボーを見ている。
『俺は、お前に勝つためにずっと努力して来た。それなのに貴様はずっと相手にしてくれなかった。好きになった女もお前に盗られ、そして今度は髪まで俺から奪った……」
完全な逆恨みだけど、男性の観客はマンボーを声援しだした。クリス様は結構、男性陣に恨まれていたようだ。
「命まで助けてもらっておきながら、逆恨みなんてちっちゃい男ね」
「いや、彼の言い分も間違っていないんだ。クリスは髪がああなる前に助けることができたのに、何度も戦いを挑んでくるマンボーが鬱陶しかったからあえて時間をおいて助けたんだ。同級生だから、事あるごとに戦いを挑んでいたからな。クリスの気持ちもわからないでもないが、さすがに可哀想だな」
「「「同級生!!!」」」
クリス様とマンボーは同級生だった。よく考えればわかるはずだった。身分差があるのにマンボーは「貴様」とか言ってるのは同級生だからだ。学院では身分の上下は関係なく扱うと言う事だからだろ。
「ああ見えて、マンボーは同い年なんだ。以前はテストではクリスに勝ててたんだが、ナナミさんのおかげでクリスの目が見えるようになったからテストでも勝てなくなったんだ。それでこの戦いに挑んだのだろう」
アデル様の説明を聞いてるうちに戦いは始まっていた。準決勝と違い、クリス様の方がかなり押されている。クリス様の魔剣は氷だから炎に弱いのかもしれない。
炎の魔剣から吐き出される炎は普通の炎と違ってタケル様が逃げても追ってくる。それを防御魔法で弾いているがいつまで魔力が持つか心配だ。
「おっかしいなぁ。あいつ勝つ気がないんじゃないか?」
タケルが首を傾げて戦う二人を眺めている。
「どう言う事?」
「クリスが勝たないと夕食が質素になりそうだから、ハンバーガーの差し入れの時に魔剣の強度を強くしてやろうとしたんだけど、あの魔剣は絶対零度の氷の魔剣だからマンボーの持っている炎の魔剣には軽く勝てる。それでなんの細工もしなかったんだ。普通の奴には使いこなせないだろうがクリスなら楽々扱える魔剣だ。何をしてるんだ?」
タケルはやっぱり不正を行う気だったようだ。結局何もしなかったようだけど、ハンバーガーを差し入れしようとした時に気付けばよかった。油断も隙もないよ。
でも楽々勝てるのに手こずるってことはクリス様もマンボーの髪のことを気にしているのだろう。自業自得なんだけど、やっぱり禿げているのは可哀想だもんね。でもしばらくしたら生えるんだからクリス様が気にしなくてもいいと思うよ。
「ああ! そうかぁ。そうだった。クリスのやつ心配させやがって…」
突然アデル様が叫ぶのでビクッとした。何か思いついたことがあるらしい。
「どうかしましたか?」
「ナナミさん、このメガホンでクリスに声援してあげてください。きっと勝ってくれますから」
はっ、そういえばアデル様の説明を聞いていて声援を送るのを忘れてたよ。
「クリスさま~ぁ、がんばって~!」
クリス様はその声援のおかげか、急に強くなって一瞬でマンボーを氷漬けにしてしまった。炎の剣も一緒に氷漬けになっていたから氷は炎の勝てることがわかった。
黄色い歓声の横では男どもが涙している姿があちらこちらで見られる。マンボー、結構人気があったね。




