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260 魔術大会の見学 4


「アデル様もこちらで観戦するのですか?」


 アデル様は伯爵家の息子だから、貴賓席が用意されている。私たちが座っている席は平民や貴族でも男爵家や子爵家の者のための席だ。


「うん。こっちの方が面白そうだからね」


貴賓席の方が座り心地の良い椅子があるのに物好きな人だ。

私は鞄から応援グッズを取り出して、アデル様にも渡す。


「双眼鏡はわかるけど、これはなんですか?」


 双眼鏡は去年から売ってるから知っているらしい。でもメガホンは私も今回初めて買ったものなので、アデルは首を傾げている。


「メガホンと言って、声を拡張して遠くに伝わりやすくなるんです。クリス様の応援にちょうど良いでしょ」


「ああ、似たような魔道具があったなぁ。形が全然違うけど」


「あっ、似たような物があるんですね。やっぱり応援に使うんですか?」


「いや、兵士を集めた時とかに後ろに声が伝わらないと困るから作られたらしい。今では学校でも使われてるな。放送にも同じような魔道具を使っているんだ」


「そんな便利な魔道具があるんですね。そっちの方が大きな声が出せそう。タケル、今から買ってこない?」


 私がタケルに頼んでいるとアデル様はギョッとした顔で私を見た。何か変なこと言ったかな。


「だ、大丈夫ですよ。クリスが戦ってる場所はここではないので、声は十分届きます」


 ここではないのに声が届くって変な言い方だけど、この会場はそういう作りになっているのだろう。メガホンも必要なかったのかもしれない。でも少しでも大きな声で応援したいからいいよね。あのクリス様ふぁんらしき女の子たちには負けないわよ。

 準決勝の時はキャーキャー叫んでいる声に負けたので、決勝では負けられないのだ。


「さあ、応援するよ~」


「またあっという間に終わるんじゃない」


 クリリは決勝も応援する間はなさそうと呟く。でもタケルも相手の魔剣は厄介だと言ってたので油断は禁物だ。

 会場にクリス様と相手のマンボーとかいう人が現れた。マンボーの頭には髪がない。別に若くして禿げているわけではない。魔剣のせいだった。彼は魔剣の練習をしている時に自分の魔剣で髪を燃やしてしまったのだ。それだけ魔剣の制御は難しい。

どうしてその話を知っているかというと二人が登場する前に二人の経歴が放送で流れたからだ。この放送もさっきアデル様が言ってた魔道具が使われているようだ。


「ねえ、クリス様も魔剣使ってるけどクリス様の髪ってカツラじゃないよね」


私は真剣な表情でアデル様に尋ねたけど、呆れた顔で見られただけだった。クリス様のキラキラの髪がカツラだったら悲しすぎる。


「クリスの魔剣は氷系だから大丈夫だ。それにしてもマンボーはかわいそうだな。魔剣で禿げるとなかなか毛が生えないって聞いたことがあるぞ」


え? それは大変じゃない。それにもしかして今からマンボーと戦うクリス様の髪は危険じゃないの?


「「「マンボー! クリス様の髪一本でも傷つけたら許さないわよーーーぉ」」」


放送を聞いて私と同じことを思ったクリス様ファンの人たちが口々に叫んでいる。彼女達のかおは般若のようだ。

私もメガフォンを使って彼女達に加勢する。クリス様の髪を守らねば。


「そうだ! そうだ!」


マンボーは私たちの客席を見てフッと笑った。小馬鹿にしたような笑い方だった。


「俺はこのために決勝まで頑張ったんだ。クリス、貴様の髪も俺と同じにしてやる!」


なんと、マンボーは女性客全員を敵に回す発言をした。



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