258 魔術大会の見学 2
「これなら午後の決勝も楽勝だよね~~」
「それはどうかな。次の相手は結構強いぞ」
次の相手は第1試合の勝者だ。もちろんその試合も観戦したけど、それほど強いようには見えなかった。魔術大会だというのにほとんど剣術で戦っていた。二人の持っている剣が魔剣だっていうのは時々ピカーッと光るからわかるけどそれだけだった。はっきり言って地味な戦いだった。
「それほど強く見えなかったわよ」
「確かに派手な戦いではなかったが、あの魔剣は素晴らしい」
「それって魔剣が強いだけってこと?」
「いや、あれを扱えるって事は戦っている本人もスゴイってことだ」
「ええーぇ! クリス様が負けたら困るよー!」
クリリが困惑の表情を浮かべている。
「別に困らないだろう。負けるのは悔しいが命がかかってるわけじゃない。どれだけ傷付いても戦う前と変わらない姿に戻るんだから誰も悲しまない」
確かにタケルの言っているようにこれは本番と違って、たとえ死んでしまっても生き還る事が出来るのだから誰も傷付かない。
「うーん。でも侯爵邸の居心地が悪くなるんだよ」
どうも昨日はクリス様がリバーシ大会の決勝で負けたせいで、侯爵邸はお通夜みたいに暗く、クリス様を打ち負かしたクリリも居心地が悪かったらしい。今日も泊まることになっているから勝ってもらいたかったらしい。
「今日は私たちも一緒に泊まるから大丈夫よ」
「いや、ナナミ。食事の種類が変わってくるぞ。料理長もお祝いだと張り切るが、負けた時にお祝いのように豪華な食事は作れないだろう」
タケルの頭の中には食事のことしかないのかね。さっきまではクリス様が負けても仕方ないとか言ってたのに......。
「でもタケル、卑怯な真似はダメよ。勝負は正々堂々じゃないと」
「わかってるさ。ちょっと弱らせるだけならいいだろ? 相手の魔力を吸い取るだけだから誰にも気付かれないぞ」
「それならいい……わけないでしょ。クリス様だってそんな勝ち方望んでないと思う。それに、心配しなくてもクリス様は勝つ気がする。だってあんなに強いんだもん」
相手の魔力を吸い取る魔法ってあるの? それとも怪しい魔道具でも使うつもり?
タケルは食べ物がかかると非常識なことでも平気でするから困るのよね。
ランチは屋台のものでもって思ってたのにどこも並んでいて買えそうにない。並んでいたら決勝が見れなくなる。
「仕方ないからこの噴水のところでハンバーガーでも食べよう。タケルは何が良い?」
「俺は照り焼き二つとエビバーガー二つとコーラ」
「はい、じゃあこれね。クリリは?」
「タケルさんと一緒でいいよ」
「そう? じゃあこれね。ベスは?」
「よくわからないから同じもので。でも一つでいいわ」
ベスにも渡して私も同じものを食べる。
「このハンバーガーって美味しい。店で出したい。作れないかなぁ」
もぐもぐと食べながらベスが呟く。相当気に入ったようだ。
ハンバーガーは口を大きく開けて手掴みで食べないといけないから貴族とか金持ちが多いホテルでは売れない気がする。
「作るのは簡単だけど、ホテルでは売れないかもね。この王都では売れそうだけど」
「私達が食べているのを物欲しそうに見ている人がいるから、売れることは間違いないと思うけどホテル向きではないわね」
ベスもプリーモホテルの客層ではハンバーガーは無理だとわかったようだ。
「パンはゴングの店に頼めば良いからハンバーガーやホットドッグの店を作ったらどうだ?」
扱う商品がなぜか増えてる。タケルはホットドッグも食べたいようだ。私も食べたいけどさすがにもう店を増やす気は無い。
「私はもう店を増やすいいは無いよ。誰かが出すって言うのなら出資くらいはしてもいいけどね」
「それだと希望者が殺到しそうだな。どうせならハンバーガーを知ってる者がオーナーの方が良い」
「どうして?」
「一から商品の説明をしなくても作れるだろう」
確かに説明するのは面倒だけど、そんなこと言ってたら誰もできない。ハンバーガーを知ってる人なんてこの世界にはいないのだから。
「でもそんな人いないでしょう? タケルがオーナーになる?」
「俺は食べるの専門だ。それにいるだろ? ナナミみたいにこの世界に突然連れてこられて人が。その人達の中に店を持ちたい人間がいるはずだ。そうと決まったら探して見るよ」
探して見るよってタケルは言ってるけど、そんなに簡単に見つかるのかな。
まあ、ホットドッグやハンバーガーを売ってる店ができたら嬉しいからタケルに任せよう。何と言っても日本のハンバーガーは一年限りしか取り寄せられないのだから代案は大歓迎だよね。




