257 魔術大会の見学1
「どうして魔術大会なのに剣を持っているの?」
「魔術大会とは魔法を使って相手と戦うんだけど武器を使てもいいんだ。この大会は魔術の腕だけでは勝てないってことだな。それに剣もただの剣じゃない。魔剣を使っている」
魔剣? それは何? と聞こうとしたがドンッと言う音で遮られた。
剣から火が出て爆発したようだった。
あれが魔剣。確かに剣術武闘大会の時の剣とは違って禍々しい。
ファンタジーだよ。ファンタジー!
「でもこれって大丈夫なの? 死人が出そうなんだけど」
グシャッとなりそうで怖い。
「死人んが出ないように魔法が働いているから大丈夫だ。ここからではわからないだろうけど今戦っている場所は目の前にあるように見えるけど異空間で戦っている。そこでは時間が戻せるから死んでも生き返ることができる」
タケルの説明はチンプンカンプンだけどグシャッとなっても死なないことだけはわかった。日本では戦闘なんてないし、喧嘩だって見ることはあまりない。漫画や映画と違って迫力がある。死なないと聞いてても、剣が刺されば痛そうだし血だって流れている。その姿を見ていると胸が騒いで仕方なかったけど、怪我も試合前と同じ状態に戻ると聞いてからは安心して見れるようになった。
「はぁーーーーぁ。安心した。戦いである以上怪我は仕方ないけど死人が出るのはやりすぎだよね。魔術を使ってるからいつ死人がでてもおかしくないもん」
クリス様は涼しい顔で立っている。クリス様は女の人に人気があるらしく黄色い声援が多い。黄色い声援をする方へ視線を向けると若い娘に混じって中年のおばさま方がいた。すごい人気だ。
彼女たちが持っているのはプリーモ商会で売っている『高級双眼鏡』だ。本当にプリーモさんは商売上手だ。プリーモさんは『高級リバーシ』の時みたいに売り上げの三割をアイデア料として『マジックショップナナミ』に払ってくれている。
ちなみの私たちが持っているのは百均で買った普通の双眼鏡だ。
「クリス様の相手は随分大きいけど大丈夫かなぁ」
クリリは心配そうにクリス様を見ている。
「腕に太さもクリス様の倍はあるね。でもあの人震えてない?」
クリス様の勝負の相手はクリス様より体格が良く、強そうなのになぜか震えている。
「ホントだ。震えてるよ。なんでだろ」
「それは彼にはクリスの強さがわかるからだ」
タケルが私とクリリの疑問に答えてくれた。
「クリス様の方はまだ防御しかしていないのに強いってわかるの?」
「普通に立っているだけならわからないが、クリスは魔力で相手を威圧している。圧倒的な魔力の違いに気付いて戦うのが怖くて仕方ないのさ。だからあんな無駄な魔法を使うんだ」
準決勝まで残っているのだから相手もそれほど弱くないはずなのに、ここまで恐れるってクリス様って思っていたよりずっと強かったみたい。見た目からは荒事には向かない感じなのにね。
試合はすぐに終わった。クリス様の攻撃は氷魔法を使って、相手を凍らせるというシンプルな戦いかただった。相手の男は火の魔法を使っていたけど全く効果がなかった。一瞬で凍らされてしまった男はマヌケな姿で彫像のような姿になった。
「血が出ないのは良いけどマヌケな姿だよね」
「うん。キリッとした姿だったら良かったんだろうけど…あれはないよね。早く溶かしてあげないと可哀想」
クリス様だけは怒らないようにしようとナナミとクリリは思った。
クリス様の方からもこちらが見えるのか手を振り上げているので、クリリと私は手を振って応えた。
クリス様を応援していた集団は自分たちのために手を振りあげてくれたと勘違いしたらしく、
「「「キャーーーーーーァァ!!!」」」
と奇声を発して周りの人を困らせていた。
クリス様は決勝へと進むことが決まった。決勝は昼からだからランチを食べに行くことにした。