256 クリリVSクリス ークリリside
リバーシは子供でも簡単に遊べるゲームである。
白と黒。挟めば色が変わり、最終的に多い方が勝つ。
俺は白が好きだ。なんとなく白だと負けない気がする。目の前にいるのはいつもの優しいクリス様ではない。同じガイアからの出場だったため決勝戦まであたらなかった。
会場の上の方でナナミさんが「頑張れー!」と応援してくれているけど、俺の応援なのかクリス様の応援なのかわからない。
「すごい応援だね。クリリはナナミさんに可愛がられているから羨ましいよ」
クリス様がナナミさんの方を見ながら呟く。クリス様はナナミさんに憧れているらしい。時々店に来るのも俺の勉強を見てくれているのもナナミさんによく思われたいからだ。利用されているのはわかっているけど、俺の方もそれを利用して学院のことを教えてもらっているのでお互い様だ。
「「「クリス様〜! 頑張ってくださ〜い!」」」
黄色い声援が聞こえてくる。
「クリス様って人気者なんですね。あれって学院の生徒なんでしょ」
「どうして出場してることがバレたんだろう。こんな地味な競技には興味がないと思ってたんだけどな」
クリス様は会場の上の方にいる大勢の女生徒に優雅に手を振りながら首を傾げている。
確かに花見祭では様々な競技が行われている。各地の街からの代表者が競うこともあってヴィジャイナ学院でも盛り上がっていたが、新しくできた競技よりも伝統ある競技の方が注目度が高かった。特に注目度が高いのは魔法を使っての戦いや、剣や槍のような道具だけを使って戦う競技だそうだ。
クリス様はリバーシ大会だけでなく魔法を使っての戦いにも出る予定なので、まさかリバーシ大会に出場したことが知られているとは思っていなかった。
「さすがに決勝まで残ったら注目を浴びますよ。昨日まではそれほどでもなかったのに今日はこんなに応援する人がいっぱいです」
去年のリバーシ大会だけとは違って、今年は花見祭の時に開催したからわざわざ地味なリバーシ大会を見にくる人は少なかった。手に汗握る剣術武闘大会や魔術大会の方が人気があるのは当然で、クリリもリバーシ大会の試合がないときはナナミさんたちと一緒に観に行った。残念ながらクリス様の戦いはまだ観ていないけど、準決勝まで残っていると聞いているのでリバーシ大会が終わったら応援に行く予定になっている。
昨日行った剣術武闘大会では知っている人もいないのに声が枯れるほど応援していたナナミさんを思い出して、今日の応援は昨日ほどでなくて安心した。
「ああ、でももう結果は決まったな。このまま戦っても勝てる気がしないよ」
クリス様が盤上を見て呟く。白が優勢なのは誰が見てもわかる。
「白だと負ける気がしません。白の時はタケルさんにも負けてないですから」
俺の言葉にクリス様が眼を見張る。
「まさかゲームとはいえタケル様に勝つ奴が現れるとはな……」
勝負を終わらせるためにゲームを続ける。どうあがいても負けが決まったことで、クリス様の表情もいつもの優しい表情に戻っている。
「今日はもうガイアに帰るのか?」
「うーん。どうなのかなぁ。ナナミさんがクリス様の魔術大会を見るって行ってたから明日も来ないと行けないし、どうなんだろう」
「えっ? ナ、ナナミさんが観戦してくれるのか?」
「うん。絶対に観るって張り切ってたよ。でもね、ナナミさんの応援はすごいからね。覚悟してた方がいいかも」
クリス様はナナミさんがくることを聞いただけで動揺していて、俺の忠告は耳に入らなかったようだ。負けが決まっているからというのもあるだろうけど、ゲームにも集中できないようで試合は俺の圧勝で終わった。
なんだか明日の魔術大会が心配になる。
「クリス様、大丈夫かなぁ〜」