254 花見祭に行こう 3
早速弁当を広げる。
昨日の夜に頑張って作った弁当はマジック鞄に入れていたから温かい。
クリリの好きなコッコウドリの唐揚げはたくさんある。
いなり寿司は作るのが難しいので百円コンビニで買ったものを別の容器にたくさん詰めた。
「わー! ナナミさんの玉子焼きだー! 」
クリリが一番に食べたのは玉子焼きだった。それを見てベスも玉子焼きを食べる。ガイアではタマゴは目玉焼きにするらしく、玉子焼きを食べるのは初めてだとベスは嬉しそうだ。
「このウインナーもパリッとしてて美味しいな。ウータイのウインナーか?」
「この間ヨウジさんから貰った箱の中に入ってたの。他にもチーズがたくさん入ってたわ。この焼き豚もどきもヨウジさんの手作りよ」
時々ヨウジさんはタケル経由でウータイの特産品をくれる。そのお返しに私も日本酒や米やハンバーガーなどをタケルに運ばせている。
「美味いな。そういえば味噌を二人で協力して作ってるって言ってたけど、どうなってるんだ?」
「どうだろうね。こればっかりは出来て見ないとわからないよ」
大豆に似た豆があったのでヨウジさんと一緒に自家製の味噌作りをしている。まだ仕込みが始まったばかりだからできるのはまだまだ先の話だ。それに一緒に作っていると言っても情報を提供し合っているだけで、作るのはそれぞれの場所だ。どんな味噌ができるのか今から楽しみだよ。
あらかた食べつくすとまだ開けていない容器があるのにタケルが気付いた。
「これは何が入ってるんだ?」
「ふふふ、おはぎだよ」
「おはぎ!」
容器を開けると普通のおはぎときな粉をまぶしているおはぎが並んでいる。
食事を食べた後だからそんなに入らないだろうと思ってたけど、クリリとタケルの目の輝きからするとこれでも足りないかもしれない。
「おはぎって甘くて美味しい。たくさん食べたのにまだまだ入りそう」
「あんこが美味しいんだよ。ぜんざいを食べた時も思ったけどほっぺたが落ちそうだよ」
私は昨日も味見したので珍しくはないけど、花見をしながら食べるとまた違った美味しさがある。まさかこの世界で花見をしながらおはぎを食べれるとは思わなかったなぁ。
「クリリは明日からリバーシ大会だけど試合はまだなんだよね」
「うん。プリーモさんが言ってた。前回優勝だったから明後日からなんだって」
クリリはシード扱いって事なのかな。
「そっかぁ。じゃあ明後日から応援に来るね」
「忙しいのに応援なんていいよ」
「何言ってるの。クリリはガイアの代表でもあるんだから絶対に応援するよ」
ガイアからはドッジボールの代表も来るけど応援団のようなものは来ないらしい。応援団とは何かと聞かれたくらいだから存在自体がないのだろう。
「じゃあ、クリス様の応援もするんだね」
「そうだな。クリス様は明日の試合もあるんだろう。明後日まで残ってたら応援してやろう」
タケルが意地悪そうな顔で言ってるけど、両手におはぎを持ってる格好が付かない。
「クリス様は応援なんかなくても勝ち進みそうよね」
「よほど強い相手と当たらない限り大丈夫だろう」
「ありがとうございます。まさかタケル様からそう言ってもらえるとは思いませんでした」
わたしの後ろからクリス様の声がした。振り向くとクリス様が立っていた。花見に行くことは言っていたけど来ることは聞いていなかった。
タケルも知らなかったようで驚いている。
「何しにきたんだ?」
「決まってるでしょう。花見ですよ」
「フン、どうだかな」
「失礼だよタケル。今日からクリリも世話になるんだからね。クリス様、こちらに座ってください。弁当は全部食べたけど、おはぎが残っているんですよ。食べてください」
「おはぎですか? 美味しそうですね」
「これはぜんざいと同じ豆で作ってるんですよ」
クリス様に箸で上手におはぎを食べている。
「中身はご飯ですか? 少し違うようですが…」
「もち米っていうのも使っているのでモチモチしてるんです」
「ほー。これはなかなか。美味しいですね」
貴族であるクリス様の口にも合ったようで安心した。ティーグルはここまでのひこうで疲れたようで餌を食べた後はぐっすりと寝ている。
桜を眺めている人は少ない。みんな屋台で買った料理に夢中だ。酒を飲んでいる人もいる。日本の花見と同じだなと懐かしくなる。
時折吹く風で舞い踊る桜の花びらが私の方にも流れて来る。来年も必ず花見に来ようと思った。
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