253 花見祭に行こう 2
王都に到着。残念ながら今回は門の前で並んでいる。王都の中に入るには門の前には行列ができている。タケルの転移魔法を利用すれば門の前に並ばなくていいけど、今回はあえて並ぶことにした。その理由はクリリがリバーシ大会に出場するので、後から難癖つけられないようにきちんと門から入場した方が良いだろうとタケルが言ったからだ。
私達が並んでいるのは一般人と冒険者が並ぶ列。隣の長い列は商業ギルドカードを持った商人たちだ。私も商業ギルドカードは持ってるけどあっちには並びたくない。下手をすると今日中に入れるかどうかも怪しい。貴族用の門もあるけど、使えるのはタケルだけなので今回は除外した。
「何であっちはあんなに並んでるの?」
クリリが何でも知っているタケルに尋ねる。私も知りたかったので聞き耳をたてる。
「一件にかかる時間が違うからだ。運んでくる荷物が怪しいと判断された場合は全部調べられるからな」
荷馬車の人が多い。マジックボックスって便利だけど持ってる人は少ないのかな。
サクサクと進んで私達の番が来た。四人とティーグルを見ると門番が
「カードを見せてください」
と丁寧に言って来た。門番ってもっと横柄な人かと思っていた。意外にも紳士な対応だ。
門番に冒険者カードを見せると水晶のような物にかざすように言われる。
ピカーっと青く光ったかと思うと通っていいと言われる。ティーグルにもカードがあってそれはプリーモさんからもらっていたのでそれを見せるだけで良かった。
クリリも同じように冒険者カードを見せた。すると門番がジロジロとクリリを見る。
「随分若いな。ここにはどんな用事で?」
「花見祭の時に行われるリバーシ大会に出るためです」
「うーん、ちょっとあちらで詳しく聞かせてもらおうか」
え? なんで? クリリがどこかへ連れていかれてしまう! 慌てて声をかけようとしたら私よりも早くタケルが待ったをかけた。
「俺の連れに用があるのなら先に俺のカードも確認してくれ」
「この獣人は貴方の連れですか? まさか奴隷にしてるわけじゃないでしょうね」
「奴隷? 奴隷にそんな良い格好させるはずがないだろう。少し細いが毎日風呂にも入っている。見ればわかるだろう」
門番はクリリの袖をまくったりして身体を調べたあと、クリリのカードとタケルのカードを水晶にかざす。クリリのカードは青く光り、タケルのカードは緑に光った。その緑の光に門番たちは慌てた。
「申し訳ございません。勇者さまとは知らず失礼しました」
ひれ伏しそうな勢いで謝る門番たち。緑の光は勇者の印なのだろうか。黄門さまの印籠みたいだ。
「門番の仕事だから気にするな。じゃあ、通らせてもらうぞ」
「はっ」
タケルの姿が見えなくなるまでは頭を上げようとしない門番たちに私は驚きが隠せなかった。勇者って私が思っているよりずっとすごい存在なのかもしれない。
「タケル、今のは何だったの? 初めは獣人差別かと思ってたけど違うよね」
「ああ、俺もそうかと思った。でもそれにしては連れだって言った俺を睨んでくるのですぐに間違いに気付いた。最近獣人を違法に奴隷にしているものが増えてるらしくてその取り締まりだろう。クリリが標準より痩せてることと、この年齢で王都まで親子連れでないのに連れられて来たことで怪しまれたようだ」
確かにクリリは痩せている。最近はよく食べているから成長はしているけど、横より縦に伸びているからね。
「どうして袖までまくられたの?」
「殴られてないか調べるためと奴隷にした印がないか確かめるためだろう」
奴隷の印は腕にするらしい。どんな印なのかは知らないいけどその印は奴隷の期間が終わっても消えないので、一生傷物になると言われた。タケルは何でも知っている。
クリリは気にしていないようでティーグルの背中を撫でている。ゴロゴロと鳴いているティーグルは可愛い。
「それより腹が減った。早く弁当にしようぜ」
「待ってよ。桜が見えるところでないと花見弁当は出さないよ」
「桜は確かこの道をまっすぐいけばあったはず……」
タケルの後をついていくと確かに桜が咲いていた。
人も多いし、屋台もたくさん出ている。桜の下にもたくさんの人がいる。
私たちも急いで場所取りをする。百均で買ったレジャーシートを広げていると珍しいのか周りの人が見ている。
「こんなに屋台が出てるんなら弁当はいらなかったね」
「屋台の料理も良いけど、ナナミさんの弁当も楽しみだよ」
クリリは本当に優しい良い子だ。タケルにもこのくらいのことは言って欲しいものだ。
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