251 タケノコを食べよう
春が来た。雪が溶け春一番が吹いた後に寒の戻りがあったけどしばらくして、ポカポカと暖かい日が続くようになった。
日本と同じで四季があるこの国に住めて良かったなと思う。暑いだけも嫌だし、寒くて薄暗い国には住みたくない。きっと身体がついていかない。女神様の加護があっても精神的についていかないと思うのだ。
「クリリ~! 春だよ~!」
冬が嫌いなわけじゃないけど、春が来ると浮かれてしまう。
「うーん、俺は冬の方が好きだな。ナナミさんが来てから美味しいものが沢山食べれるから冬がいいよ」
クリリはお餅が好きだから冬の方が良いみたいなことを言う。でもアイスも好きだから夏になればきっと夏が好きだと言うはずだ。まだまだ子供だよね。
「春だってタケノコとか美味しいものがあるでしょ~」
「タケノコ? ああ、グングンのことかぁ。あれは春になると毎日のように食べてたからもういいよ」
孤児院の裏山で採れるタケノコ(グングン)は春の主食だったみたいで、それほど食べたいものではないらしい。グングンはあっという間に大きくなるけど、孤児院ではこの時期は裏山で待機して取っていたようだ。タケルから高級食材だと聞いたので今年は食べるより、商業ギルドに売っているそうだ。
毎日食べて飽きてたから孤児院のみんなは売ったお金でコッコウドリのお肉やモウモウのお肉を買えたと喜んでいる。お米は毎日食べても飽きないから不思議だよね。
夕飯はタケノコご飯にしようと思っていたけど考え直した方がいいかな。でもタケルが楽しみにしているから作らないと拗ねそうだ。
その日はタケルが沢山のタケノコを採って来たのでタケノコづくしの夕飯になった。
「このタケノコご飯美味しい! タケノコって焼くだけでなくこうやって食べれるなんて知らなかったよ」
クリリも最初はタケノコかぁとしょんぼりしてたけど、食べ出すと元気になった。
タケノコ入りの茶碗蒸しも気に入ってくれたようだ。
「この季節はタケノコが一番美味しいな」
「まあ美味しいことは否定しないけど一番とは言えないね。フキも美味しいでしょ、それに春キャベツも美味しいよ」
タケノコがあるからこっちの世界にもフキはあるよね。春キャベツはないかも。
「フキかぁ。子供の頃は嫌いだったけど今は好きになった。酒と一緒に食べると美味しいだろうな。次はフキを採って来るぞ」
どうやらフキはあるみたいだ。タケルが採って来てくれるみたいだから、今年の春はフキが食べれるね。去年の春は商売が忙しくてフキが食べたいとか思わなかった。まさかフキがあるとは思わなかったもんね。
「これで桜が見れたら最高なのに~」
日本の春の代名詞は桜だと思う。日本人である私は桜に飢えている。去年も見れなかったし、今年もダメなんだろうなぁ。って言うか、もう見れないのか。
「あぁ? ナナミは桜が見たかったのか?」
タケルが不思議そうな顔で聞いて来る。
「そりゃ、日本人だもの春になれば桜を見たいよ」
「サクラなら王都に行けばいくらでも見れるよ」
「え?」
クリリが何を言っているのかわからなかった。もしかして桜が見れるって言った?
「クリリの言う通りだ。そろそろ咲くんじゃないか?」
「えーーーぇ! 桜があるの?」
「あるよ。このガイアにはないみたいだけど春になればあちらこちらで咲いてるよ」
山に登れば野生の桜も咲いているとタケルは言う。
「なんで教えてくれなかったのよ」
私は恨みがましい目でタケルを見る。
「聞かれなかったから。まさか桜を見たいと思っているとは思わなかった」
そうだった。タケルは食べ物にしか興味がないから桜に興味がないのだ。花より団子はタケルのためにある言葉だったのだ。
でも私は違う。桜が好きだし桜の下で酒を飲んだり弁当を食べたりするのも大好きだ。
「花見とかしてもいいの?」
「花見してる人は見なかったような気がするな。もしかして花見をするつもりなのか?」
「桜と言ったら花見でしょ」
「花見かぁ。弁当食べたり酒飲んだりするんだよな。よし、場所取りは俺に任せろ。食べ物はナナミに任せた」
桜には興味がなかったようなのに花見には行きたいらしい。場所取りはしてくれるようなので任せることにしよう。
私は花見に持っていく弁当に何を入れるか考えながら、タケノコ入りの茶碗蒸しを食べていた。