246 ガイア神殿の悲劇ーマーダside
ガイア神殿の神殿長であるヨーグルは鏡にうつった自分の頭を見てため息をついていた。どうしてこんなことになってしまったのか、彼は知っていた。誰に言われたわけでもないが、神殿長であるヨーグルは髪の毛が薄くなりだした時に女神様の罰だと直ぐに気が付いた。
ヨーグルは髪を大事にしていた。自分の髪がこんなことになるなんて、ナナミという女が原因だという事は分かっているがどうすることも出来ない。彼女にはユーリアナ女神様の加護がある。迂闊なことをして、頭の上だけでなく全部の髪がなくなってしまったらと思うと夜も眠れない。
赤い髪の神殿長は自分だけだったのにいまではハゲの神殿長と言われているのではないかと気になって本殿にも行くのが億劫になっている。あれだけ自慢していた髪がなくなったのだ。頭を隠して歩きたいが、神殿長であるヨーグルにはその選択肢はない。
彼女はユーリアナ女神と話もしたことがあるようだった。触らぬ神に祟りなしだ。これ以上は関わらないとと決めたのだ。本当は彼女の存在がものすごく気になるが見て見ぬふりをしている。
「神殿長、至急お耳に入れたいことがございます」
神殿長の補佐をする神殿儀長が困った顔で話しいかけてきた。ヨーグルが赤髪の前に立つといつまでも髪を気にして仕事にならないので彼は困っていたのだ。そこで最近噂になっているあの話をする事にした。この話は神殿長も興味を示すだろうと思ったからだ。
「なんだ?」
ヨーグルは鏡から目を話す事なく神殿儀長のマーダに尋ねた。マーダはヨーグルのこの態度には慣れていたので気にする事なく話し出す。
「街では風邪が流行しているようで、この間から神殿の方に助けを求めるものが絶えない状態でした」
「その事なら知っているが、この神殿には治癒魔法の使い手などいないのだから仕方なかろう」
「はい。そう言って追い返していたのですがそれでも病人を連れてくるものが後を絶たないので困っておりました」
「なんだと? 神殿に病人を連れてくるとは何事だ! 私に風邪が感染ったらどうする?」
街の人間がどうなろうと気にならなかったヨーグルだったが、神殿に病人を連れてきていると聞いて青くなった。鏡からようやく振り返ってマーダを怒鳴りつける。マーダは神殿長とは思えない発言をするヨーグルにため息をつきたくなった。本来神殿で病人を見るのは当たり前のことだ。ここの神殿に治癒魔法の使い手がいないから病人を受け入れてないだけである。
「お言葉を返すようですが、神殿とはそもそも……」
神殿長であるヨーグルにわかるように説明しようとしたマーダだったが、説教が嫌いなヨーグルに遮られた。
「ああ、もうよい。私に近付けないのなら好きにするがよい」
マーダはまだ言いたいことがあったが、仕方なく口を閉じた。説教より言わなければならないことがある。
「『マジックショップナナミ』で風邪薬が販売されたと聞いたのでですが、これが非常によく効く薬だと評判なんです」
「それはそうだろう。ナナミ様には女神様の加護があるのだからなんの不思議もない」
てっきり大騒ぎをすると思っていたのでマーダは不思議に思った。ナナミ様に関わるのはやめたと言っていたのは本当だったようだった。
「ではこのまま放置していいのですね」
「構わぬ」
神殿と関係ないものが病の人を助けると大きな問題に発展することがあるので、神殿側としては取り締まりをする場合もあるが今回は詐欺ではないようだし黙認する事になった。
「風邪薬と偽って販売している店屋については、近いうちに呼び出すのでよろしくお願いします」
「たいした詐欺ではないのだろう。放っておいてもよいのではないか」
「街での評判を考えると対処した方がいいです」
ヨーグルの表情は面倒くさいと言ってたが無視した。彼の顔色を伺っていたら話が先に進まないことをマーダは知っていた。
「それと神殿の下の者が何か悪さをしそうですが…」
「まだ何もしていないのだろう。放っておけ。下の者のことまで責任はとれん」
マーダは気になっていたがヨーグルにそれ以上は言うのは諦めた。マーダはヨーグルの世話だけでも大変だったのでこれ以上仕事を増やしたくなかったのだ。
だがもっと強引に言っておいたらよかったと後で後悔する事になる。彼らはなんと『マジックショップナナミ』で悪さをしたのだ。
そのことを知らされた神殿長の髪はさらに減り、「女神様の罰だあーーーぁ!」と泣き叫ぶ神殿長を見て笑いをこらえていたマーダだったが、自分の部屋の鏡の前で薄くなってきた髪をみて「まさか私にも天罰が…」と青くなった。
彼らの髪が薄くなったのが本当に女神様の罰だったのかどうかは誰も知らない。
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