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244 風邪薬を売ろう


「ナナミさん、みんなの風邪が治ったよ。薬をありがとうって院長先生が言ってた」


クリリの横に立っているアルビーも頷いている。昨日はよく寝れたのかアルビーの耳がピンッと立っている。良かった、良かった。


「それにしても一日で治るなんてすごいね。あの薬は症状を緩和させる薬なんだけど、こっちだと効き目が全然違う気がするね」


「今、風邪が流行ってるから売ったら喜ばれるよ」


クリリが提案してくるけどそれは出来ない。


「薬の在庫がたくさんあればするけど、これってくじで当てた救急箱に入ってたぶんだからそんなにないのよ。それに薬をあげるのならいいけど、売るのは資格とか届出もいるみたいだから難しいわね」


「あの全く効き目のなかった風邪薬を売ってる店は資格があるのかぁ。なんか許せないんだけど…」


効き目がなかった風邪薬はそれでも結構高かったらしく、孤児院としては結構な出費だったみたいだ。効き目のない風邪薬ってどんなものなんだろう。まさかただの栄養剤とかじゃないよね。

わたし達には薬の知識がない。だから騙す人も多いと思う。でもここで商売をしてるんだったら変な薬で儲けようなんて思わない方がいい。きっとショルトさんが調べてくれるはずだ。


「商業ギルドで調べてもらった方がいいかも。その店、足元見て便乗値上げしてるみたいよ」


コレットさんも思うところがあるようだでプンプンしている。よく聞いてみると旦那のノエルさんが風邪で寝込んでいるそうだ。早く言って欲しかった。この街にも医術の先生はいるけど、今は隣町に行っているらしく留守が続いている。それもあってこの街で唯一の薬屋は風邪薬を値上げして売ってるそうだ。それで治るのなら良いけど、効き目はないのだからコレットさんが怒るのも無理はない。

わたしはコレットさんに風邪薬と栄養剤を渡して、今日は帰ったもらうことにした。心配で仕事どころじゃない気がする。この世界は風邪で死ぬ人がいるのだから。

でも困ったな。この街から本当に死人が出たらどうしよう。ここは薬のことを話した方が良くないだろうか。それにしても医術の先生はどうして帰ってこないのだろう。普通はこんなに長い間留守をしたりはしないそうだ。

まさかその薬屋の陰謀で……ってそれはないか。水戸黄門じゃあるまいし。


「その薬屋が先生を隠してるんじゃないの?」


エミリアは耳が良い。隣の店にいたのに聞こえていたようだ。風邪が流行っているから店屋は閑古鳥になっている。エミリアはオープンしたばかりなのにとプンプンしている。でも街の人はそれどころではない。どんどん風邪が広がっているから、できるだけ家に閉じこもっている。とても雑貨を買う余裕はない。『マジックショップナナミ』の方は、缶詰やカップ麺、スポーツドリンクが飛ぶように売れている。家に閉じこもるには食品は欠かせないのだ。


「さすがにそれはないでしょう。彼らにそこまでの犯罪をする勇気はなさそうです」


ショルトさんが現れた。いつの間に? って思ったけどみんなは驚いてないから私が考え込んでいた時に入ってきたのだろう。


「彼らができるのはちっちゃい詐欺行為だけです。それも悪気はなさそうですね。薬なんて効くと思えば効くのだから、自分たちは悪くないと言い張ってます。それに実際に治った人もいるので、犯罪の立証は難しそうです」


日本の医療でも偽薬ってあるもんね。確か、偽薬効果とかプラセボ効果とか言われてたっけ。


「彼らは野放しなの? なんか腹立つ!」


クリリが怒ったように言う。でもこればっかりはどうしようもない。孤児院に風邪薬のお金が返ってくることはないだろう。


「それで相談なんだが、医術の先生は隣町で風邪になったようで当分帰れそうにない。孤児院のみんなが治った薬を売ってもらえないか?」


あれ? どうしてショルトさんが知っているのかな。私がクリリを見たけど首を振られた。クリリが話したわけでもなさそうだ。


「こう言う話は隠していても広がるものだ。ここに押しかけてくるのも時間の問題だ。それよりは商業ギルドの方で買い取ってこっちで売る方が良い」


「でも…、薬を売るのは資格がいるって聞いてますよ」


「その辺はこっちでなんとかしよう。ただ、なるべく安く売って欲しい。なるべくなら全員に配りたい」


くじで当たった物だから、それでも良いけど問題はみんなに配れるかどうかだ。薬の数、足りるかな?


「風邪薬は数に限りがあるんですよ。足りるといいけど」


一瓶に180錠入ってるけど、あと9瓶しかない。これを小袋に分けて売るにしても、使い方の説明とか大変な作業になりそうだ。

ショルトさんも困った顔になった。けれど何もしないよりは良いと判断したようで薬を買って帰った。もしここに薬を買いに来たら商業ギルドに行くように言えば良さそうで安心した。

だって薬が全てなくなって足らなかった時の混乱もショルトさんが引き受けてくれると言ってくれたから。まあ、その代わりに格安で風邪薬を売ることになったけどね。

ちなみに栄養剤は売っていない。これはあまり外に出さない方が良いと思ったから……。


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