243. 孤児院のお手伝いークリリside
孤児院の方で風邪が流行していると聞いたのは昨日のことだった。今日が休みだったのでちょうどいいなと思った。アルビーもその辺を考えて昨日教えてくれたのだろうと孤児院に来てすぐに気付いた。
「これは昨日今日じゃない。アルビーのやつ、もっと早く教えてくれれば良いのに....、ナナミさんがよく効く風邪薬を持ってるって言ってたから、昨日話せば良かったかな」
ここまで流行ってるとは思ってなかったから、遠慮したのだ。それでなくても孤児院のことではナナミさんにお世話になっている。風邪くらいって思ってたけど、今年の風邪は酷いのかもしれない。
「院長先生は?」
職員で通いのマルチナさんに尋ねる。
「院長先生も風邪が酷くて昨日から寝てるのよ。人手が足りないからクリリが来てくれて助かるわ」
それからは本当に大変だった。
元気な人の方が少ないのだ。
獣人の方が風邪にはかかりにくいようで、風邪になっていないのは獣人だけだった。それでアルビーもまだ風邪が感染っていないのだろう。でも全く風邪にならないわけではなく獣人の何人かは寝込んでいる。
「とりあえず俺たちで出来ることだけはしておこう。モンドとバレットは畑の方を頼む」
「おう。わかった」
「ロリーとギュータは台所の手伝いだ」
「はぁい。でもみんなあまり食べないから、今朝のご飯もあまってるの」
ロリーが心配そうに呟く。そうか食欲もないのか。病気になると食欲がなくなると聞いたことがある。クリリは病気とは無縁だったから、食欲がなくなるというのがよくわからないけど、ナナミさんが熱があるときは桃缶が良いって言ってたことを思い出す。後で買いに行こうかな。そんなことを思いながら歩いていると、孤児院にコソコソと入り込んで来る人がいることに気付いた。まさかこんなところに泥棒は入らないだろうけど、なんで足音を立てないように歩いてるんだろう。クリリもそっと廊下を覗いてみた。そこには忍び足で歩いているナナミさんの姿が……。
「ナナミさん、どうしてここに?」
俺が後ろから声をかけるとビクッとして振り向いた。俺の姿を見てホッとしたようだ。聞けばアルビーから聞いて、風邪薬を届けに来てくれたと言う。アルビーもドンドンと風邪ひきさんが増えるので、怖くなってナナミさんに相談したらしい。
一応院長先生が買ってくれた風邪薬があるけど、全然効いていないようなので、ナナミさんの風邪薬を飲んでもらうことにした。
ところがナナミさんの風邪薬は食後に飲むものだという。食欲がなくて朝ごはんもあまり食べていないことを言うと、
「胃に悪いから、食後の方が良い良い。そうだ、たまご粥にしよう」
イニワルイ? 時々よくわからないことをナナミさんは呟く。でもたまご粥はなんとなくわかる。前に茶粥を食べさせてもらったことがあるから、きっとその仲間だろう。
ナナミさんは病人にたまご粥、俺たちには親子丼を作ってくれた。俺としてはたまご粥も食べてみたかったけど仕方がない。今度病気になった時にでも作ってもらおう。
食欲がないと食べなかった人も、たまご粥は食べてくれた。そして風邪薬と栄養ドリンクも飲んでくれた。これで少しは改善してくれるといいな。
院長先生にも同じものを持っていくと、具合が悪そうだけど喜んでくれた。
ナナミさんは人出がいないせいで掃除ができていない部屋も魔法で綺麗にしていた。埃っぽいと病気になりやすいそうだ。
風邪薬と栄養ドリンクの予備をマルチナさんに渡して、具合が悪い時は職員の人も飲んでくださいねと言って帰っていった。
「ナナミさんは本当に優しい方ね」
マルチナさんは実は少し熱っぽいけど孤児院が心配だったから休まないで来たことを話してくれた。そのことにナナミさんは気付いていたのだろうと言うけど、俺はどうかなと思った。ナナミさんは、マルチナさんが風邪だと気付いて薬を飲んでもいいよと言ったのではなく、風邪はひき始めが肝心だって言ってたから渡しただけだと思う。でもナナミさんが優しい人だと言うのはその通りだ。こんなに俺たちに親切にしてくれる人はいなかった。見返りを求めないナナミさんはすごいよね。
「マルチナさんまで倒れたら大変だから、マルチナさんも薬と栄養ドリンクを飲んできょうは帰った方がいいよ。夕飯の支度もナナミさんが用意してくれたからあとは俺たちに任せて」
マルチナさんはありがとうと言って帰っていった。薬で治ってくれるといいなぁと思う。
その日は念のために泊まった。タケルさんには手紙を書いたので大丈夫だ。明日は仕事だけど、自転車で行けば良いから朝も少しは手伝える。夕方に帰ってきたアルビーは俺を見てホッとした顔で微笑んだ。
翌朝、驚いたことにみんな風邪が治っていた。っていうか俺より元気になっていた。これは栄養ドリンクのせいだろう。あれは俺も飲んだことがあるけどヤバイ代物だ。
ナナミさんがくれた風邪薬は本当にすごい。まさか昼と夜に飲んだだけで全快するなんて! でもあんまり評判になるとナナミさんが困りそうだから、みんなには内緒だよといっておいた。