241 培養土を売ろう
クリス様のおかげもあって、『マジックショップ・エルフの雑貨屋さん』の初日の売り上げは予想よりもずっと多かった。エミリアは自信満々のような顔をしていたけど、内心は不安だったようで売り上げを見てホッとしていた。
『マジックショップナナミ』の売れ行きが落ちるかと思っていたけど、思ったよりは変化がなかった。どちらかと言うとクリス様が連れてきてお嬢様方がこちらでも買ってくれたのでいつもより良かった。
「でも、商品の種類が減ったぶん売り上げは落ちて行くと思うよ」
クリリの言うようにこのままだと厳しいかもしれない。店の売り上げは落ちても他の店舗からの収入も入ってくるし、『デンタク』などの商品を商業ギルドに売っているので、私的には問題はないけどクリリは不満そうだ。何か売れるものを考えたほうがいいみたい。
「農業関係のものも売ったらどうだ? 俺の領地であっちの野菜を育ててただろ、あの時は魔法を使って急激に育てたから大きく育ったのかと思ってたけど、普通に育てても大きく育つことがわかった」
そういえばタケルの領地で実験してもらっていたんだった。異世界の種で野菜や花も作ってもらっている。でもタケルが言っているのはそのことではなかった。こちらの世界の野菜にも有効らしい。
「スコップが結構人気なんだ。あのくらいの大きさのって今までなかったみたいだな。あとじょうろも水やりに最適だとか言ってた」
スコップやじょうろはこの世界にもあると思ってた。作り方が違うのだろうか。
「培養土はどうだった?」
タケルには百均で売っている培養土も試してもらった。
「なんかすごいことになってた。栄養ドリンクの効き目が違っただろ? それと同じで培養土を使って作った野菜はさらに大きさが違うんだ。通常よりかなり大きく育ってた」
「あ、味はどうだったの? 中身がスカスカになってたりしない?」
大きく育てば良いってものじゃないのでタケルに尋ねた。
「中もスカスカになってないし、味も変わらなかった。他の野菜でも挑戦したいって領民は言ってるそうだ」
それはすごい! 実験してもらって良かった。そう言うことなら明日からでも売ってみよう。すぐに売れる商品ではないけど、〈勇者様のオススメ品〉を貼っておけばそのうち売れるようになる。〈勇者様のオススメ品〉に間違いはないってみんな知ってるからね。
園芸関係の物は大きいものが多いから場所をとるけど、女性ものを置いていた場所が空いているから丁度良い。スコップや軍手にアームカバー、培養土の他にも赤玉土など、用途がよくわからないけど役立ちそうな物を並べていった。培養土などを入れてある袋には、使い方が詳しく書かれているから初めて使う人にも便利だ。ただ字が読めない人には説明が必要だけど……。
「農民はやっぱり字が読めない人が多いのかなぁ」
「最近は漫画の普及で覚えようとする若者もいるけど、年寄りは読めない人が多いな。農民は朝から晩まで働くから字を覚える暇がないんだろう」
「夜は暇じゃないの?」
「朝早く起きないといけないから、基本、早寝早起きなんだ。暇なんてないさ」
農業の過酷さをまざまざと思い知らされた。農民ってやっぱり大変なんだ。そんな生活だと字を覚えるのは無理だね。
「そんなに頑張っても、『がみゅう』っていう虫のせいで全滅する事さえあるんだ。これを使って少しでも楽になるといいんだけどな」
「『がみゅう』って虫は魔物なの?」
「いや魔物とは違うけど、厄介な虫で、突然現われるから対処できなくて作物が全滅する。見つけたら焼くしか方法がない」
「焼くって作物ごと焼くの? でもそんなことしたら困るでしょ」
「困るなんてものじゃないけど、そうしないとよその畑にも広がってしまうから、泣く泣く焼いてしまうらしいよ」
私たちはもっと農家の人に感謝しないとけない。魔法が使えるこの世界の方が楽に育てることができるのかと思っていた。水やりとか魔法でできそうな気がしてた。でもそんな便利な魔法はごく一部の人にしか使えないみたい。ほとんどの人は日本の江戸時代くらいって言ったら失礼かもしれないけど、そのくらい古い知識で農業をしている。
少しでも役立つようにどんどん広げていかないと。よし、今回は私の方からプリーモさんに連絡してみよう。培養土をみんなに売りたいけど、ここだけで売っていたら広がるまでに時間がかかってしまう。プリーモさんに売って貰えば、あっという間に広がりそうだ。
うーん。『がみゅう』って虫をどうにかできるといいんだけど。何か虫だけを排除する魔法みたいなのないのかしら。この魔法が使える世界で誰も思いつかないってことは、ないってことよね。だとしたら百均で何かないかな。
うーん。全く思いつかない。今後の課題だね〜。