237 女子力が一番高いのは....
エミリアは明日から開店する店の準備で大忙しだ。
店の名前は『マジックショップナナミ』の姉妹店、『マジックショップ・エルフの雑貨屋さん』に決定した。エミリアの名前も入れたかったけどこれ以上長いと看板屋さんが大変だというので断念した。
「はぁ~。素敵だわ。なんか華やかですね」
今日は開店前に感想を聞きたいとエミリアが言うのでモリーとベスを招待している。モリーはこの店を大変気に入ってくれたようでうっとりとしていた。
『マジックショップナナミ』と違ってこの店は壁紙も薄いピンクで、全体的に女性の店って感じでまとめられている。
「なんか匂いも良いわ」
ベスはクンクンと匂いを嗅いでいる。バラの香りだ。百均にあるアロマの香りをエミリアに見せたところバラの香りがとても気に入ったようで、店の香りに決定してしまった。確かに良い匂いだけどいつもこの匂いって飽きないのかなぁ。
アルビーはクリリと同じようにお手伝いをしてくれることになった。と言っても昼間の数時間だけだ。エミリアの店が忙しくなりそうなので徐々に仕事を覚えてもらうことにした。
アルビーは店に飾るための手袋や帽子を編んでいる。毛糸の種類も編み棒もたくさん増やすことはできたけど、やっぱり見本が欲しいとエミリアが急に言いだしたからだ。前に編んでくれたセーターは発売と同時に売れたので在庫がないのだ。孤児院のみんなが作っている夏のバザー用のレース編みの話をクリリから聞いたらしく売ってくれないかなとエミリアは呟いている。見本がある方が売りやすいと考えているようだ。
「帽子とか手袋だったら直ぐに作れますよ。それに今は寒いからレース編みのものより、毛糸で編んだものの方が売れると思います」
「アルビーの言ってる通りだと俺も思うよ。ほら、このセーターは売り物にはならないけど飾るには十分だろ」
そう言ってクリリが取り出したのは小さな手編みのセーター数枚だった。クリリはエミリアがどこかの国で買ったという売り物ではない熊のぬいぐるみたちにそのセーターを着せている。多分クリリはこの熊のためにわざわざ編んだんだね。
「セーターの柄が違ってるから同じ熊なのに全く違うように見えるのね」
クリリはセーターを普通に編んでいたら二日はかかってしまうし、売り場に出せば直ぐに買い取られてしまう。毛糸の宣伝用にどうすれば良いかと考えて、熊にセーターを着せることを思いついたそうだ。なかなかのアイデアだと思う。熊はエミリアの私物で売り物ではないから、欲しいと言われても売ることはできない。これなら宣伝効果もバッチリだ。やっぱりクリリは天才だ。
アルビーが孤児院の院長先生に交渉してくれたおかげで、毛糸で作る帽子やセーターを『マジックショップ・エルフの雑貨屋さん』で売ることが決まった。今はまだ作り出したばかりなので売るものがないけど、いずれは孤児院の子供たちが毛糸で作ったものが並ぶ予定だ。
「でもこの熊さん、欲しがる人がいそうですよ」
モリーが言うように私も欲しいなと思っている。エミリアの熊さんは顔がリアルで怖かったので欲しいとは思っていなかった。それなのにクリリお手製のセーターはを来た途端にとってもプリティに変身してしまったのだ。
「なんですか、みなさんこの熊のこと『顔が怖い』だの『この店には似合ってない』って散々な言いようだったのに手のひら返しですか?」
「「「だってかわいいいぃぃぃく変身したからね」」」
「なんなのよ。敗北感でいっぱいなんだけど」
クリリのセーター一つでここまで違うのかとエミリアはマジマジと熊を見つめていた。クリリのセーターは色の配色もパステルカラーで可愛く仕上げているし、細かい作業なのに手間をかけてケーブル編みで網目模様にしている。
「なんか私たちよりクリリの方が女子力高くない?」
エミリアの呟きは全力でスルーさせてもらったよ。