236 コンビニのおでんを食べよう
タケルは機嫌が悪い。私たちがタケルに内緒で『うさぎ亭』に行った話をアルマンさんが話してしまったからだ。なんで自分で話すかなぁ。
謝るのも変だから知らんふりをしている。夕食の時間には機嫌も直るだろう。何時ものことだ。
ちなみにエミリアは開店の準備で忙しい。細かい髪飾りをどういう風に並べるのが一番か、ああでもない、こうでもないと大忙しだ。
あまりに熱心なので、百均で買えるインテリアグッズを色々と取り揃えて渡した。
少しでも楽に飾れるように渡したのに、返って大変になったと思うのは気のせいじゃない。
「こんな物があったなんて! どうして今頃出すのよ。これで一からやり直しよ」
喜んでもらおうと思って、買ったのにショックだ。私は地味に落ち込んだ。
「別に一からやり直さなくても、今から並べるのだけこれを使えば良いだろ。ナナミさんに八つ当たりするなよ」
クリリは私をかばってくれた。タケルはチラッと私たちの方を見たが何も言わないで、難しそうな本を読んでいる。やっぱり食事までは機嫌は直らないね。
今日は百円コンビニのおでんにしよう。
大きな鍋二つをアイテムカバンに入れ、百均でおでんを選ぶと
『二つの鍋におでんを入れますか?』
という文字が出るので『はい』を選ぶ。後は具を選んでと数を入力する。
「おでんはやっぱり大根が大事だよね。後は玉子とちくわともち巾着、糸こんにゃく、たこ、牛すじ、厚揚げ、じゃがいも、ウインナー巻き。よしこんなものかな」
「ちょっと待て。はんぺんがないぞ」
タケルが焦ったような声ではんぺん、はんぺんとうるさい。でもはんぺんっていらないよね。
「はんぺんはいらないよ。味しないし」
「何を言ってるんだ。はんぺんがないおでんなんておでんじゃないぞ」
相変わらずタケルは大袈裟だなぁ。わたしの家のおでんには、はんぺんなんて入れてなかったよ。プカプカ浮かんで場所を取るだけだと思うんだけど。
「仕方ないね。はんぺんも買うよ」
あんまり必要じゃないからはんぺんの数だけ少なくした。支払いをすませると自動的に鍋におでんが入る。辛子もいるか聞かれたから『はい』を選んだ。
夕飯まではこのままアイテムカバンの中に入れておく。わざわざ温めなくていいからね。
夕飯までの一時間はティーグルに餌を与えたり、明日のために商品を補充したりと忙しい。それに駆け込みで買い出しに来る冒険者たちもいる。冒険者は朝早くから活動する人が多いから、前の日に準備をするそうだ。
コレットさんが帰宅していないから、忙しい時は私も店番を手伝っている。でもクリリが優秀だから私は補充ばかりしてるけどね。
タケルはティーグルと猫じゃらしで遊んでいる。結構本格的なので壁が壊れないようにシールドをしている。運動不足解消のためだって言ってるけど、私には遊んでいるようにしか見えない。
「みんな夕飯にしよう。今日はおでんだよ」
コレットさんは帰っているから、タケルとエミリアとクリリと私の四人だ。エミリアはまだ開店準備で忙しそうだったけど、夕飯を先に食べてもらうことにした。
鍋の中には色の薄いつゆが溢れそうなくらい入っていて、具もギュウギュウに浸かっている。
私の家のつゆとは違うけど、この色の薄いつゆも結構好きだ。
「この大根ギュってつゆが染み込んでて美味しいな」
タケルの機嫌はやっぱり直っている。タケルには日本酒も渡す。するとエミリアも欲しいのか羨ましそうな顔で見てる。でも未成年に酒は与えらえれないのでスルーする。
「俺はやっぱり玉子が好き。コッコウ鳥の玉子と同じようで違うよね。この茶色くなってるのって味が染みてるんだよね」
クリリの一押しは意外なことに玉子だった。
「私はこの厚揚げっていうのが好き。この食感はどこにもないもの」
私はじゃがいもが好きだ。本当は里芋も好きなんだけど売ってなかったから入っていない。残ったら具を足して、明日のお昼もおでんにしようかな。こっちの世界の野菜とか入れてもいいかも。
色々と計画を立てていたけど、大きな鍋二つぶんもあっという間になくなった。この三人の食欲を甘くみてたよ。