235 アルマンさんとエミリア
アルマンさんの幼児趣味疑惑は私とクリリを引かせたが、話を聞いて納得した。アルマンさんとエミリアが同じ年だった幼い頃に恋人(?)だったことがあったそうだ。エミリアの成長が遅くなり、段々と疎遠になってしまったと聞くといつまでも若くて羨ましいと思っていた自分が情けなくなった。
「僕だけが年を取って行くのが耐えられなくて逃げ出してしまったんだよ。それからずっと旅をしながら唄を歌ってるのさ」
なんか幼い頃の淡い恋って良いわね。まさかエミリアにこんな思い出があったなんてね。
「ナナミ〜! 吟遊詩人は嘘が上手なんだから気をつけて!」
「え? 今の嘘なの?」
ちょっと感動したのに返してほしいよ。吟遊詩人は口がうまくてキザな男が多いってタケルも言ってたっけ。
「エミリア、嘘じゃないよ。俺はずっとエミリアの事を唄い続けるつもりだよ。エミリアが魔王退治に協力してるって聞いてどれだけ驚いたか。でも俺の使命はエミリアたちの姿を唄うことだって.....」
「あー、ハイハイ。わかった、わかった。本当にアルマンは変わってないわね。昔っから口が上手かった」
「エミリアも変わってないよ。見た目もだけど、そうやって俺の言うことを信じないところも」
アルマンさんは苦笑している。でもエミリアを見る目はとても優しい。嘘ばっかりじゃあなさそうだね。エミリアも『ふん』とか言ってるけどまんざらでもなさそう。
「ところでエミリアはどうしてこのガイアにいるんだい? ユダナ國にいるって噂で聞いてたのに。まさか勇者様を追いかけ来たのかい?」
アルマンさんが不思議そうな顔で聞く。タケルがこの街にいる事は知ってるようだ。
「まさか! ナナミさんの出してくれる不思議な食べ物が目当てで着いて来たんだけど、食べ物じゃなくて他のものも変わっててとっても楽しいのよ」
エミリアは私が出す不思議な食べ物の話をした。私からしたら全然不思議じゃないけどこの世界では食べれないものばかりだからね〜。
「ああ、不思議な食べ物で勇者様の心を掴んだことで有名なナナミさんか。きっとすごく綺麗な人なんだろうなぁ。まさかエミリアの心まで掴むとは。これはやっぱり唄で広めていかないと。で、ナナミさんってどんな容姿か教えてよ。唄を作るのにこれは外せないからね」
エミリアは私を見て困った顔になった。何もそんなに困らなくても良いでしょ。確かにあんまり期待されてるときまりが悪いけど。
「私がナナミよ。なんか文句あるの?」
ちょっと喧嘩腰になってしまった。エミリアの隣に座っていた私にアルマンさんは初めて気がついたようで驚いて目を見開いた。失礼な奴だ。
「えっ? 君がナナミさんなの? なんか....うーん。子供じゃないよね?」
エミリアより背だって高いのに子供ってどう言う意味よ! 私がプンプンしているとアルマンさん自分の失言に気付いたようで謝ってきた。
「あー、すまない。エミリアと並んで座ってるとあまり変わらない気がして。はっはっは〜」
謝っていると言うより笑ってごまかしている気がしないでもない。でもここでまた怒るほど私も子供じゃないからね。
「そうねぇ。じゃあ勇者たちの冒険の旅の唄を歌ってよ。今日はそれを聞きに来たんだから」
「えっ! それはダメだ。タケル様にナナミさんには聞かせてはいけないって言われてるんだよ」
何よ、それは。せっかく聞きに来たのに唄ってくれないの?
「ナナミがいる事を知らなかったってことにすれば良いでしょ」
「おいおい、勇者様相手に嘘が通じると思うのか?」
「大丈夫よ。いざとなればナナミに庇って貰えば良いのよ。タケルはナナミには逆らえないんだから」
なんかそれって私がタケルを尻に 敷いてるみたいじゃないの。変なことを吟遊詩人に教えないでほしい。勇者様を尻に敷いてる人間って広められたら恥ずかしくて外を歩けなくなるよ。
結局、アルマンさんは歌ってくれた。それは目の前にタケルやエミリアの姿が浮かび上がるくらい素晴らしい唄だった。
でも確かに容姿については大げさで、自分が唄にされたら恥ずかしいだろうなぁとは思った。
私が聞いたのは魔王退治のはじめの部分。まだまだ続きがあるそうで、とても楽しみだ。